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光触媒によるエチレンガスの分解

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光触媒によるエチレンガスの分解

エチレンガスは、光触媒によって分解が可能です。

エチレンガスが分解できると、野菜や果物の熟成を抑え、鮮度を保ち、長持ちさせることにつながります。

弊社は、もともと農業関連の事業を行っていました。弊社が光触媒の研究に初めて取り組んだ理由は、エチレンガスの分解でした。

ある農業協同組合の指導員から「農家が収穫した野菜や果物は、収穫した時点から劣化が始まるので、この劣化を少なくして新鮮な状態で消費者に届ける方法はないのか?」というご相談を頂き、それに取り組む中で、光触媒による分解を考え、装置を考案し、光触媒によるエチレンガスの分解に成功しました。

この記事では、農協がエチレンガスを抑えたい理由や光触媒によるエチレンガスの分解方法、その応用例を解説いたします。

農協が野菜や果物の劣化を抑えたい理由

「野菜や果物の劣化を抑えたい」と考えた理由は、野菜や果物の出荷のためでした。

野菜や果物は、同じ時期に植えたものでも、収穫時期が異なります。ところが、卸市場に出荷するタイミングは、一定量の野菜を収穫してからになります。

農協では、農家が野菜や果物を収穫したものを農協の冷蔵倉庫に保管しておき、何日かして一定量が溜まったら、卸市場に持っていきます。何日か経過していたら、物によって野菜や果物の鮮度が異なっているわけです。

もし、野菜や果物の熟成を止めることができたら、収穫時期が異なっても一定の品質のものを卸市場に持っていくことができます。

そういったことから、「野菜や果物の劣化を抑制したい」とのご相談でした。

野菜や果物の収穫は、どこかを切断されて行います。すると野菜や果物がエチレンガスを放出し始め、熟成が進むのです。弊社では、このエチレンガスに注目しました。エチレンガスを除去したり、分解したりできたら、野菜や果物の熟成を止められるはずです。

光触媒によるエチレンガスの分解試験

弊社は佐賀県にある会社です。ご相談をいただいた当時、佐賀県では窯業技術センターで新しい光触媒が開発されていました。そのこともあって、「光触媒でエチレンガスが分解できたら、熟成を止められるのではないか?」と考えました。

さっそく知人が経営する佐賀県の光触媒を製造する企業に相談し、佐賀県の酸化チタン光触媒を分けてもらい、酸化チタン光触媒コーティングされたフィルターと紫外線ランプ(5W)を組み合わせたエチレン分解装置の試作機を製造しました。装置の大きさは、家庭用の空気清浄機ほどの大きさです。

試験は、佐賀県農業試験研究センターで行ってもらいました。

試験は、花卉(かき)が入った1坪タイプのプレハブ冷蔵庫で行いました。花卉がそのまま入ったプレハブ冷蔵庫では、エチレンガスの濃度がみるみる上昇していく環境でした。

エチレンガス分解装置試作機によるエチレンガス分解試験結果

試作したエチレンガス分解装置を入れて起動させたところ、エチレンガス濃度がぐんぐんと減っていく結果が得られました。

その試験結果が、この図になります。

試験前にエチレンガスを測定すると、36ppmほどの濃度がありましたが、装置のスイッチをONにすると、1分後にはエチレンガスの濃度が半減し、18ppmに減少しました。

その後は、エチレンガスの濃度の減少が弱まり、16ppmほどでほぼ横ばいが続きました。

エチレンガスの分解が止まった理由は、装置がエチレンガスを分解し続けても、花卉からエチレンガスが出続けているためです。エチレンガスが放出される速度と、装置による分解の速度がバランスするところで、下がり止まります。

エチレンガスを完全に消し去ることは難しいですが、濃度をもっと下げたい場合は、大容量の紫外線ランプを用いたり、装置を大型化すると可能です。また、冷蔵庫内の壁面への光触媒コーティング加工なら、暗所でも触媒の効果を発揮する「銅ドープ酸化チタン光触媒」でしたらエチレンの分解が可能です。

エチレンガスの化学式はc2h4です。光触媒によって発生するOHラジカルによって酸化分解されると、水と二酸化炭素になります。

光触媒によるエチレンガス分解の応用例

空気清浄機のような装置以外の、光触媒によるエチレンガス分解の応用例をご紹介します。まだ製造したこともないものもあるので、アイデアだけ公開しておきたいと思います。

鮮度保持袋

光触媒で分解する場合は、袋の内側に光触媒コーティング塗装をすると良いです。

ただし、上記のように酸化チタンを使った場合は、袋に野菜を入れて紫外線を照射しないといけませんから、現実的ではありません。そこで、銅ドープ酸化チタンを使うと良いでしょう。

銅ドープ酸化チタンであれば、紫外線ではなく可視光にも反応しますし、暗所でもエチレンガスを分解してくれると思います。ですので、野菜を入れた袋を冷蔵庫に入れてしまっても、エチレンガスを分解して、鮮度を保持してくれるはずです。

銅ドープ酸化チタンの光触媒コーティングされた鮮度保持袋は、強力にエチレンガスを分解するので、市販品の鮮度保持袋以上に性能を有する可能性があります。なぜなら、光触媒コーティングによって防カビもできるからです。

冷蔵庫の中の光触媒コーティング

冷蔵庫の中に光触媒コーティングをしておけば、冷蔵庫内で発生したエチレンガスを分解してくれます。エチレンガスを吸着透過させる袋の場合は、袋から出たエチレンガスが、他の野菜や果物の熟成を勧めてしまう可能性があります。

冷蔵庫の中を光触媒コーティングしておけば、冷蔵庫内のエチレンガスを分解してくれ、野菜が長持ちします。

もちろん、冷蔵庫内は暗所ですから、銅ドープ酸化チタンを使った光触媒コーティングが必須となります。

冷蔵庫の中の光触媒コーティングは、冷蔵庫の中のカビ防止や臭いの分解もできます。

業務用の野菜保管庫への応用

業務用の広い野菜保管庫への応用にも、光触媒を利用できます。例えば、野菜保管庫の中に、エチレンガス分解装置を設置します。銅ドープ酸化チタンを塗装したフィルターを装置内部に設置し、紫外線ランプを照射します。

銅ドープ酸化チタンは、弱い光や暗所でもエチレンガスを分解してくれますが、紫外線ランプを照射したら、強力に分解してくれるようになります。小型の装置で、広い野菜保管庫のエチレンガスを分解するのに最適です。

以上、農家がエチレンガスを抑えたい理由や光触媒によるエチレンガスの分解方法、その応用例を解説いたしました。

エチレンガスの分解をお考えの企業様、エチレンガス分解装置を開発したい企業様は、弊社までお気軽にご相談ください。

この記事の著者/責任者

島田幸一

株式会社イリス 代表取締役
島田 幸一 (Shimada Koichi)

私はもともと、地元農業のソリューション提供を事業としていたが、野菜や果物の劣化を促進させるエチレンガスの分解を研究したことで、光触媒の可能性を感じ起業いたしました。運よく可視光でも効果のある酸化チタン光触媒を世界で初めて開発して脚光を浴び、さまざまな業種のお客様から注文をいただける企業にまで成長できました。現在弊社は、可視光応答型光触媒を使ったコーティング剤を始め、外壁やガラス、石材、自動車の車内にクリア塗装ができる光触媒コーティング剤や、酸化チタンから下地を守るプライマーの開発。その後も、さまざまな材質に光触媒を定着するための研究を続け、多くの企業で採用されています。

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