
防災テントは、震災などの災害時に自宅で寝泊まりができない場合に、外泊をするときに利用されるテントです。
学校の校庭に防災拠点や救護拠点を設置する大型のものや、学校の体育館や教室に設置するものもあります。
防災テントは、避難者が寝泊まりするだけではありません。簡易トイレや更衣室としても利用されます。体育館にプライバシー保護用に用いられるテントもあります。東京都港区のように、新型コロナやインフルエンザ、ノロウイルスなどの感染者対策として、避難所指定されている箇所にて防災テントを活用している事例もあります。
避難所での感染症を予防するために、人がよく触れる箇所の除菌が大事だと、災害看護の講習会で習いました。防災テントのファスナー部分やハンドル部分は、人がよく触れる箇所ですから、そういった場所は入念な除菌が求められます。
この記事では、防災テントの人が触れる部分や、テント内の抗菌コーティングとして、光触媒コーティングの可能性をご説明したいと思います。
光触媒コーティングとは?
最初に光触媒コーティングとはどういったものかをご説明いたします。光触媒コーティングについて詳しい方は、読み飛ばしてください。
光触媒とは?
そもとも光触媒とは、光エネルギーを受けたら表面にOHラジカルといわれる活性酸素を発生させて、それに触れたものを酸化分解する性質を持つ物質のことです。代表的な成分として、アナターゼ型酸化チタンがあります。
酸化チタンとは、金属チタンが酸化したものです。アナターゼ型とは、その結晶構造の一種です。他にもルチル型やブルッカイト型といったものがあります。以下、アナターゼ型酸化チタンは名称が長いので、単に「酸化チタン」と呼びたいと思います。
酸化チタンは、紫外線が当たるとOHラジカルが多く発生します。OHラジカルは、大腸菌やウイルスといったものが触れると、その表面やそのものを酸化分解し、不活性化や死滅させる性質があります。大腸菌やウイルスだけでなく、臭いやアレルゲンも分解してくれます。
光触媒は、触媒効果によってそれらの分解が行われても、光触媒そのものは変化しませんから、光が当たり続けていれば、半永久的に抗菌や消臭をし続けてくれるという、防災では魅力的な性質を持ちます。
そのような性質を持つ光触媒を、防災テントに塗布することができたら、いかがでしょうか?
光触媒コーティングに利用される光触媒の種類
光触媒の種類は酸化チタン以外にもたくさんの種類があります。その種類によって、性質や効果の高さが異なります。防災テントを光触媒加工する場合には、光触媒コーティング塗装という方法を取ることが一般的です。
光触媒コーティングとは、光触媒を液剤にしたものを塗装する加工方法です。その液剤のことを、光触媒コーティング剤といいます。
光触媒コーティング剤として実用化されている光触媒の種類は、主に次のものがあります。
- 酸化チタン
- 銅ドープ酸化チタン(銅担持酸化チタン)
- 窒素ドープ酸化チタン
- 鉄ドープ酸化チタン
- 酸化タングステン
酸化チタン光触媒はテント内では抗菌効果なし
酸化チタンは、紫外線が当たることによって抗菌や抗ウイルスといった効果が強く発揮されることをご紹介しました。ところが、紫外線が当たらない環境では、それらの効果がまったくと言ってよいほど発揮されません。
テントの中に酸化チタンで抗菌コーティングした場合、テントの中にどれだけ紫外線があるかによって、抗菌力が出るかどうかが決まります。さて、テントの中の紫外線量はどうでしょうか?
もちろん、テントの中にはほとんど紫外線がありません。現在市販されているテントの多くは、UVカット機能があるモデルが多いと思います。外で長時間生活をする防災テントは、UVカット機能は必須と言えるものです。UVカット機能がある防災テントの内側を、酸化チタンで抗菌コートをしても、抗菌効果が発揮されません。
テントの中の光で抗菌効果を発揮する光触媒の種類を選ぶことが、とても大事なのです。
防災テント内や暗所でも抗菌効果の高い光触媒は「銅ドープ酸化チタン」
防災テントの中といった光が弱いところや暗所でも、高い抗菌効果の高い光触媒の種類は、銅ドープ酸化チタン(銅担持酸化チタン)です。
銅ドープ酸化チタンとは、酸化チタンにナノサイズの酸化銅を結合させた成分です。ドープとは、「結合させた」という意味になります。酸化チタンは紫外線にしか反応しませんが、銅ドープ酸化チタンは青色やシアン(水色)の光にも反応し、強い抗菌効果を発揮します。
光触媒コーティング剤として実用化されている成分には、他にも窒素ドープ酸化チタン、鉄ドープ酸化チタン、酸化タングステンがありますが、それらの成分も青色の光に反応するタイプなのですが、銅ドープ酸化チタンはそれらの成分よりも10倍以上の抗菌効果を発揮します。
光触媒は明るい光が当たることで、強い抗菌力を発揮しますが、光が弱いところでは抗菌力が落ちてしまいます。銅ドープ酸化チタンであれば、他の成分とは異なり、薄暗い場所や暗所でも強い抗菌力を発揮しますから、防災テント内の抗菌コーティングとして最適です。
光触媒の種類と効果をまとめると次のようになります。
紫外線下 | 可視光下 | 暗所 | |
酸化チタン | ◎ | × | × |
銅ドープ酸化チタン | ◎ | 〇 | 〇 |
窒素ドープ酸化チタン | ◎ | △ | × |
鉄ドープ酸化チタン | ◎ | △ | × |
酸化タングステン | 〇 | △ | × |
効果の持続期間や安全性は?

弊社の銅ドープ酸化チタンを使った光触媒コーティング剤は、屋内用光触媒コーティング剤(BX01-AB1)です。
この製品は、無機塗料ですので耐久性が高く、使用環境によっては、弊社実績で10年以上抗菌効果が持続します。防災テントは、発災時にしか人が触れるものではありませんから、おそらく効果が20年以上持つと思います。
身体への安全性は、第三者機関に試験してもらい、安全性が確認されています。数日~数か月間生活をする防災テントの抗菌コーティングとしておすすめの製品です。
防災テントの光触媒コーティング加工の方法
防災テントに光触媒コーティング加工をする方法をご説明します。
防災テントのどの箇所に光触媒コーティング塗装すべきか?
最初に加工すべき箇所をご説明します。「防災テントのどの部分に光触媒コーティング加工すれば良いのか?」ということですが、次のような箇所を加工すると良いでしょう。
- シートの内側(壁面や天井)
- 床シート
- 入口のファスナー部分やハンドル
- ポール
人が触れる場所は、光触媒コーティング加工しておくことをおすすめします。人があまり触れることがないので、シートの外側は、抗菌コーティングしておかなくても良いと思います。
光触媒コーティング加工ができない場所もあります。それは、透過ビニールの窓枠です。この部分を光触媒コーティング塗装すると、ビニールに光触媒特有のまだら模様が出てしまうからです。
光触媒コーティング剤と下地保護剤の施工
光触媒は、菌類やウイルスを分解する性質がありますが、それと同様にプラスチックも分解する性質があります。分解と言っても、ボロボロに分解できるわけではなく、表面の色彩に色あせが起こります。
特に、防災テントの直射日光が当たる箇所では、光触媒が強く反応するために劣化を早めてしまいやすいです。
光触媒による劣化を防止するために、光触媒コーティング剤を塗装する前に、下地保護剤(プライマー)を塗装しておきます。プライマーは、光触媒で劣化しない成分でできている液剤で、それを塗装しておくと、光触媒成分がプラスチックに直接触れなくなるので、光触媒による防災テントの劣化を防ぐことができます。

屋内用光触媒コーティング剤(BX01-AB1)に適合するように調合されたプライマーは、屋内用プライマー(AS01)です。銅ドープ酸化チタンによる劣化から、塗装面を長期間保護してくれます。
光触媒コーティング剤を選ぶときに、プライマーの存在を確認しておいた方が良いです。そして、プライマーを製造していないメーカーのものを使用しない方が良いでしょう。なぜなら、プライマーを製造していないメーカーの製品は、抗菌効果が弱い可能性があるからです。効果が弱いので、「プライマーを使用しなくても良い」と言われることもあるのです。
光触媒コーティング剤を選ぶ際は、プライマーも製造しているメーカーの製品を選ぶようにしましょう。
塗装は専用の塗装機械とスプレーガンを用いる

光触媒コーティング剤やプライマーの塗装は、専用の塗装機械とスプレーガンを用います。弊社がおすすめする専用の塗装機械は、ABAC温風低圧塗装機です。それに附属しているスプレーガンを用いると、均一に光触媒コーティング剤の塗装ができます。
温風低圧塗装機とは、コンプレッサーから出てくるエアーが加熱されています。加熱されたエアーで塗装すると、冬場でも光触媒コーティング剤が早く乾燥するので、作業性が高まります。
またABAC温風低圧塗装機に付属するスプレーガンは、噴霧する液剤を囲むように、エアーカーテンが噴き出るため、他の一般的なスプレーガンの塗着効率が30%ほどに対して、ABACのスプレーガンは70%以上と高く、液剤を無駄なく塗装ができます。また、多少風が吹いている環境でも、均一に塗装ができます。

光触媒コーティング剤の塗装では、スプレーガンに用いるスプレーノズルの口径には、0.3mmや0.5mmといった小口径のものを用います。
光触媒コーティング加工の流れ
防災テントへの光触媒コーティング加工は、次の流れで行います。
- 塗装場所の養生
- 防災テントの表面を清掃し埃を落とす
- プライマーの塗装(1回目)
- 乾燥
- プライマーの塗装(2回目)
- 乾燥
- 光触媒コーティング剤の塗装(1回目)
- 乾燥
- 光触媒コーティング剤の塗装(2回目)
- 乾燥
光触媒コーティング加工を行う場所は、防災テントが保管されている学校などで行うことになります。床にはブルーシートを敷くなどして養生し、体育館などの床面に光触媒コーティング剤が付着しないようにしてください。光触媒コーティング剤が、体育館の表面に付着すると、表面のポリウレタン塗装を劣化させる場合があるからです。
プライマーや光触媒コーティング剤の塗装では、防災テントを組み立てておいた方が塗装しやすいと思います。プライマーや光触媒コーティング剤を塗装したら、乾燥させますが、それぞれ夏場であれば30分ほど、冬場であれば2時間ほど放置するようにしてください。表面が完全に乾燥していたら、乾燥したとみなしてかまいません。
プライマー塗装と光触媒コーティング塗装は、それぞれ2回ずつ行います。
光触媒コーティング施工の費用
光触媒コーティング施工の費用は、主に次の3種類の費用を合算したものになります。
- 塗装費用
- 諸経費
- 交通費
塗装費用は、一般的には単価と塗装面積を掛けた金額となります。施工単価は、一般的には2,500円~3,500円/m2です。この金額がおおよその相場になります。
高さ2m、幅2.5m、奥行3.5mほどの少し大きめの防災テントであれば、塗装面積が30m2ほどとなり、施工単価が1m2当たり2,500円とすると、施工費用は75,000円(税別)となります。これに諸経費や交通費が加わります。
諸経費は養生や清掃などの費用になりますが、新品の防災テントであれば、埃をふき取るだけなので、清掃費用はかからないと思います。防災テントを組み立てて施工する場合には、組み立てるための費用がかかる場合があります。
交通費は、施工現場までの交通費や駐車場代です。学校に置いてある防災テントであれば、学校に駐車できるので、駐車場代はかかりません。
手軽に除菌ができる光触媒スプレーの利用
室内で効果の高い光触媒スプレーは、銅ドープ酸化チタンであることを、先ほどご紹介しました。また、光触媒コーティング剤として開発された製品もご案内させていただきました。
次に、コーティング剤が入っていない、銅ドープ酸化チタンを使った光触媒スプレーをご紹介いたします。
光触媒スプレーとは?
光触媒スプレーとは、光触媒成分を使った液剤を、除菌や消臭をしたい場所に直接スプレーして利用する製品です。
光触媒コーティング剤は、使用するために塗装機械を用いたり、塗装箇所を選んだりすることが求められます。光触媒スプレーには、コーティング剤が入っていませんから、どのような場所にも手軽に利用ができます。
使用方法は、少し振ってから除菌したい場所や消臭したい場所に、直接スプレーするだけです。
コーティング剤が入っていませんから、もちろん耐久性は悪くなります。手で触ったら、光触媒が取れてしまうくらいです。しかし、光触媒成分が付着している限り、スプレーした場所の除菌や消臭をし続けてくれます。
銅ドープ酸化チタンを使った光触媒スプレーの効果

弊社では、銅ドープ酸化チタンを使った光触媒スプレーを開発いたしました。商品名は「アキュートクリーン」です。アキュートクリーンの詳細やご購入は、こちらのページをご覧ください。
アキュートクリーンは、銅ドープ酸化チタンを使っているので、室内の除菌や消臭にも効果的です。臭いに関しても、スパイスの臭いや焼肉の臭い、タバコの臭いも一瞬で消臭ができるくらい効果があります。
避難所では、人がよく触れる場所を除菌することが求められます。手すりやドアノブといった場所は、アルコールなどで頻繁に拭き掃除をすることが求められます。そういった場所は、光触媒コーティング加工しておけば除菌ができます。除菌していない場所には、光触媒スプレーをしておくだけで除菌ができます。避難所のトイレやゴミ置き場の除菌にもご利用ください。
アキュートクリーンをご利用いただいている方の感想では、「ダイニングの油の臭いが消えた」とか、「お風呂の脱衣場のクロス天井のカビが気になっていたが、アキュートクリーンを使用するようになってから黒い斑点ができなくなった」という方もいらっしゃいます。
このように、ご家庭用としてもご利用いただけます。
アルコールや次亜塩素酸との比較
光触媒スプレーは、アルコールのように可燃性のものは利用されていないので、防災倉庫での備蓄にも向いています。
次亜塩素酸は可燃性ではありませんが、紫外線によって分解されてしまいますし、塩素が揮発していってしまい、1年ほどで効果が薄れていくことが知られています。その点、光触媒スプレーなら、長期間保管していても成分が劣化することはありませんから、長期保存にも適しています。
また、アルコールや次亜塩素酸はスプレーをしたら、一時的に除菌してくれます。それらが蒸発したり、汚れを分解して変質したら、それ以降は除菌ができなくなります。
ところが、光触媒スプレーを利用すると、スプレーしてもそこに光触媒成分が変質せずに残りますし、液体が蒸発しても光触媒成分は蒸発していきませんから、除菌し続けてくれます。この性質によって、アルコールや次亜塩素酸よりも除菌効果が高いと言えます。
もちろん、光触媒成分には暗所でも除菌効果の高い銅ドープ酸化チタンを用いた光触媒スプレーを選ぶべきでしょう。
防災備蓄倉庫に光触媒スプレーを備蓄したい場合

光触媒スプレーを備蓄したいと思ったときに、大量のスプレーを備蓄しておくことは現実的ではありません。弊社では、アキュートクリーンの液剤を1L単位で販売しており、5Lや10Lのバロンボックスに充填して販売しています。
製品名は業務用抗菌消臭剤(BRE025-AB2)です。
バロンボックスですと保管しやすいので、防災倉庫のスペースを有効に利用できます。
アキュートクリーンを箱入りでご購入されたい場合は、25本をご注文ください。25本入りの箱を1箱お送りいたします。1本あたり200mlですから、合計5Lになります。業務用抗菌消臭剤(BRE025-AB2)の10Lバロンボックスを1箱で、25本を2回補填できます。
以上、防災テントの抗菌コーティングとして、光触媒加工をご案内させていただきました。
光触媒コーティング剤を選ぶ場合は、数ある光触媒の種類の中でも、室内で抗菌効果がもっとも高い銅ドープ酸化チタンを選ぶことをおすすめします。また、防災倉庫に備蓄しておく除菌剤は、アルコールや次亜塩素酸と比べて、抗菌効果が長続きし長期間の備蓄も可能な光触媒スプレーがおすすめです。
防災テントの光触媒コーティング加工や光触媒スプレーをお求めの場合は、弊社もしくは弊社製品を扱う施工代理店にご相談ください。施工代理店一覧はこちらのページをご覧ください。
製品安全データシート(SDS)や製品カタログ、抗菌試験結果などのエビデンスが必要な方も、お気軽にお問い合わせください。また、テントのメーカー様にて、光触媒コーティング加工された防災テントの開発をご希望のメーカー様も、お気軽にご相談ください。
この記事の著者/責任者

株式会社イリス 代表取締役
島田 幸一 (Shimada Koichi)
私はもともと、地元農業のソリューション提供を事業としていたが、野菜や果物の劣化を促進させるエチレンガスの分解を研究したことで、光触媒の可能性を感じ起業いたしました。運よく可視光でも効果のある酸化チタン光触媒を世界で初めて開発して脚光を浴び、さまざまな業種のお客様から注文をいただける企業にまで成長できました。現在弊社は、可視光応答型光触媒を使ったコーティング剤を始め、外壁やガラス、石材、自動車の車内にクリア塗装ができる光触媒コーティング剤や、酸化チタンから下地を守るプライマーの開発。その後も、さまざまな材質に光触媒を定着するための研究を続け、多くの企業で採用されています。