酸化チタンを代表とする光触媒成分は、アンモニアやホルムアルデヒド、アセトアルデヒドといった有機化合物を分解できることが知られています。
しかし、一般的な光触媒では、トルエンやキシレンなどのベンゼン環を持った有機化合物の分解は難しいようです。
光触媒の種類によって、トルエンやキシレンなどの有機化合物を分解できるものもあります。その代表が「銅ドープ酸化チタン」です。
VOCを除去する方法はいろいろな種類がありますが、それらの除去には活性炭などの多孔質の物質を利用する方法もあります。しかし、吸着できる量に限界があります。
もし、活性炭などの表面にVOCを分解できる銅ドープ酸化チタン光触媒を塗布したら、どうなるのでしょうか?
活性炭などに集まってくるVOCが、光触媒によって連続的に分解されていくので、活性炭の寿命を大幅に超えてVOCを除去し続けることができます。
今回の記事は、銅ドープ酸化チタン光触媒を塗布した活性炭の可能性について検討したいと思います。
銅ドープ酸化チタン光触媒とは?
最初に銅ドープ酸化チタン光触媒について解説いたします。詳細は、「銅ドープ酸化チタンとは?室内でも高い光触媒効果を発揮」をご覧ください。
一般的な酸化チタン光触媒との違い
一般的な光触媒成分として知られる酸化チタンは、紫外線を当てることによって、光触媒として活性化する、とても性能の高い光触媒成分として知られています。
ところが、酸化チタンは紫外線を当てることによってのみ反応するので、可視光では反応しません。
そこで、弊社では20年前に「酸化チタンを可視光活性させる方法はないか?」ということで研究し、銅を添加することによって可視光でも高い効果が出ることを、世界で初めて発見しました。
一般的な酸化チタン光触媒と、銅ドープ酸化チタン光触媒との大きな違いは、「可視光活性するかどうか?」です。銅ドープ酸化チタンは青色の光で光触媒活性します。
銅ドープ酸化チタン光触媒のVOC分解性能
銅ドープ酸化チタン光触媒の性能を調べるために、さまざまな試験を行いました。その結果、酸化チタンでも分解が難しいとされるVOCを、銅ドープ酸化チタン光触媒なら分解ができることを発見しました。
当時、弊社が試験した内容は、トルエン、キシレン、スチレンの3種類です。この3つの成分は、酸化チタン光触媒でも分解が難しいとされているVOCです。その試験結果は、次の図になります。それぞれ、酸化チタン光触媒が活性する紫外線を照射した結果です。
トルエン分解の試験結果
酸化チタン光触媒では、最初のうちはトルエンが分解されていますが、3時間を超えたあたりからトルエンが分解できていません。それに対して銅ドープ酸化チタン光触媒は、24時間後には検出限界にまで分解できました。
キシレン分解の試験結果
キシレンの分解も同様に、酸化チタン光触媒では24時間後には分解ができていませんので、キシレンも酸化チタン光触媒での分解は難しいと言えます。それに対して、銅ドープ酸化チタン光触媒では、24時間後には検出限界に達しています。
スチレン分解の試験結果
スチレンは、紫外線でも自然分解されるかもしれません。酸化チタン光触媒ですと、トルエンと同様に当初はスチレンが分解できていますが、24時間後は無塗装と同等の濃度ですから、酸化チタン光触媒ではスチレンの分解が難しいと言えます。それに対して、銅ドープ酸化チタン光触媒に紫外線を照射すると、スチレンをぐんぐんと分解し、3時間ほどで分解できました。
分解試験したどのVOCの濃度も、24時間で検出限界以下になりました。
試験内容の詳細は、「揮発性有機化合物(VOC)を分解できる光触媒成分とは?」にて解説しているので、そちらをご覧ください。
なぜ銅ドープ酸化チタン光触媒がVOCを分解できるのか。その仕組みは、おそらくは東京工業大学の発見した、「ナノサイズの酸化銅は高効率な触媒活性を示す」という効果によるものと思われます。詳細は、東京工業大学ニュース「貴金属に匹敵する触媒活性を示す安価な錆びた銅」をご覧ください。
銅ドープ酸化チタンとこの研究は関係がありませんが、銅ドープ酸化チタンに添加された銅はナノサイズの酸化銅として存在します。それによって強い触媒の効果が出たのだと予想します。
酸化チタン光触媒は、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドといったVOCでしたら、すぐに分解ができます。光触媒として効果の弱い酸化タングステンでも、この2成分は分解が可能です。しかし、ベンゼン環を持つVOCは分解ができないことが常識でした。銅ドープ酸化チタン光触媒は、その常識を覆しました。
その他の有機化合物分解への応用
上記の試験は、トルエン、キシレン、スチレンの3つのVOCのみで試験をしましたが、銅ドープ酸化チタン光触媒なら他の有機化合物の分解も可能であると考えます。
例えば、ベンゼン環を持った有機化合物では、ダイオキシンも有名です。銅ドープ酸化チタン光触媒であれば、ダイオキシンも分解できる可能性があります。
有機化合物の除去装置や分解装置、フィルターなどを開発している企業様は、ぜひ銅ドープ酸化チタン光触媒をお試しください。
活性炭の表面のみに
銅ドープ酸化チタン光触媒を塗布する技術
活性炭の表面だけに銅ドープ酸化チタン光触媒を塗布する技術についてご説明します。
銅ドープ酸化チタン光触媒と活性炭を組み合わせたらどうなる?
活性炭は、電子顕微鏡で映像を見ると、微細な孔がたくさん空いています。その微細な孔の大きさに合った化学物質を吸着する性質があります。活性炭のこの性質を利用することで、水の浄化や空気中の化学物質の吸着などができます。
活性炭に何かを吸着させたら、いずれは飽和してしまって、吸着できなくなってしまいます。活性炭は少しずつ吸着力が落ちていってしまいます。吸着力が落ちた活性炭は、交換しなければなりません。
ここで、もし活性炭に銅ドープ酸化チタン光触媒を定着させられたら、銅ドープ酸化チタン光触媒が化学物質を分解していってくれるので、活性炭が延々と化学物質を吸着し続けてくれるようになるはずです。
そのような活性炭を利用すると、メンテナンス費用を大幅に下げることが可能になります。
銅ドープ酸化チタン光触媒と活性炭に定着できるのか?
酸化チタンは粉末です。その粉末を活性炭に振りかけるだけでは、活性炭に定着させられません。そこで、銅ドープ酸化チタン光触媒をコーティングできる液剤を開発しました。
この液剤を活性炭に振りかけることによって、活性炭に銅ドープ酸化チタン光触媒をしみ込ませることができます。
ところが、ここでも問題があります。
それは、銅ドープ酸化チタン光触媒が活性炭の微細な孔に入り込んでしまって、活性炭がVOCを吸着する性質を損なってしまうことです。銅ドープ酸化チタン光触媒をしみ込ませてしまったら、VOCを吸着するという活性炭の性質が活かされません。
どうにかして、「銅ドープ酸化チタン光触媒の液剤を活性炭の表面だけに薄膜でコーティングできるようにならないか?」ということで研究を行い、そのコーティング方法を開発し、特許を取得しました。
次の図は、銅ドープ酸化チタン光触媒を活性炭の表面に薄膜塗装し、その断面を走査電子顕微鏡で撮影した写真です。
左側の写真は、活性炭サンプルの断面で、幅が3mm程度のサイズです。右側は特殊な光を当てて、銅ドープ酸化チタン光触媒だけをシアン色に変化させたものです。
活性炭の断面は、黒っぽいままでシアン色になっていないので、銅ドープ酸化チタン光触媒がしみ込んでいないことがわかります。それに対して、活性炭の表面はしっかりと銅ドープ酸化チタン光触媒がコーティングされています。
表面に銅ドープ酸化チタン光触媒を塗布した活性炭の性能
非公式にですが、銅ドープ酸化チタン光触媒を塗布した活性炭の吸着・分解性能をアセトンとトルエンにて、簡易的に試験しました。
試験方法
- ガス吸着用活性炭と、それに銅ドープ酸化チタン光触媒を塗布した活性炭の2種類を用意
- 試験としてアセトンとトルエンを用意
- アセトンとトルエンの濃度を、活性炭吸着量以上に設定し、それらを容器に入れる
- それぞれ、室内の光(500lx程度)と暗所に設置
- 一定の時間後にガスの濃度を測定
使用した銅ドープ酸化チタン光触媒の液剤は、屋内用光触媒コーティング剤(BX01-AB1)です。
試験結果
試験結果は、次の表のようになりました。
明所 | 暗所 | |
活性炭のみ | × | × |
銅ドープ酸化チタン光触媒あり | 〇 | △ |
当時は簡易的な試験を行ったのみですので、どの程度の時間で分解できたかは計測していませんのでご了承ください。
試験結果を考察すると、吸着限界以上のガスを封入しているので、活性炭のみでは明所・暗所に関わらず吸着し切れていませんから、アセトン、トルエンともにガスが残っていました。
それに対して、銅ドープ酸化チタン光触媒を塗布した活性炭は、室内の光で行った明所での試験結果は、アセトン、トルエン共に完全に分解されていました。また、暗所でも吸着限界以上にガス濃度が下がっていたので、暗所でも分解されることが分かりました。
トルエン、キシレン、スチレンを分解した試験では、活性炭を用いずに紫外線を当てての試験でした。活性炭を用いていなくても、3成分をかなり分解できていたので、活性炭を利用していたら、活性炭によってVOCガスが濃縮され、効率よく分解できるようになるものと考えます。
銅ドープ酸化チタン光触媒を塗布した活性炭の応用
銅ドープ酸化チタン光触媒を塗布した活性炭の有機化合物分解の可能性を感じていただけたことと思います。銅ドープ酸化チタン光触媒を塗布した活性炭の応用を検討したいと思います。
脱臭フィルターへの応用
有機溶剤を使用している工場は多いと思います。有機溶剤を回収しないで排気する場合には、排気ガスの脱臭しなければいけない場合が多いと思います。そういった排気装置では有機溶剤脱臭フィルターを用いていることもあります。
また、臭いが出やすい工場の排気でも脱臭フィルターの設置が求められます。
そういった場所での脱臭フィルターとして、銅ドープ酸化チタン光触媒を塗布した活性炭が役立ちます。
活性炭フィルターを設置したチャンバー内部に、ブラックライトを点灯させておけば、有機物の強力な脱臭が可能です。
臭いものを扱う部屋の空調機への応用
空調機は、室内の空気を温めたり冷やしたりして、その空気を部屋に戻します。大型空調機では熱交換器などを使用して排気する空気もありますが、リターンと言って、一部の空気を部屋に戻します。
部屋で臭いが出るようなものを扱っている場合は、空気を消臭しないと、部屋に臭いが充満し、部屋にある繊維類に付着してしまいます。
銅ドープ酸化チタン光触媒を塗布した活性炭で消臭効果も高いので、部屋で臭いものを扱う部屋に設置してある空調機に応用できます。
特定のガスを分解したい場合
活性炭は、孔のサイズがさまざまですので、いろいろなガスを吸着するのに適しています。それに対して、特定のガスを吸着・分解したい場合には、特定の大きさの孔を持つ、多孔質の物質が望ましいです。
アパタイトセラミックスやゼオライトを用いることをおすすめします。
アパタイトセラミックスやゼオライトに銅ドープ酸化チタン光触媒を塗布したい企業様は、弊社までご相談ください。
以上、銅ドープ酸化チタン光触媒を塗布した活性炭の可能性というテーマで、銅ドープ酸化チタンの性質や活性炭に塗布する方法、銅ドープ酸化チタン光触媒を塗布した活性炭の応用について検討いたしました。
弊社では、銅ドープ酸化チタン光触媒を塗布した活性炭の可能性をさらに検討していきたいと考えています。もし、銅ドープ酸化チタン光触媒を塗布した活性炭にご興味のある方、銅ドープ酸化チタン光触媒を塗布した活性炭を活用した装置を開発したいとお考えの方は、弊社までお気軽にご連絡ください。
この記事の著者/責任者
株式会社イリス 代表取締役
島田 幸一 (Shimada Koichi)
私はもともと、地元農業のソリューション提供を事業としていたが、野菜や果物の劣化を促進させるエチレンガスの分解を研究したことで、光触媒の可能性を感じ起業いたしました。運よく可視光でも効果のある酸化チタン光触媒を世界で初めて開発して脚光を浴び、さまざまな業種のお客様から注文をいただける企業にまで成長できました。現在弊社は、可視光応答型光触媒を使ったコーティング剤を始め、外壁やガラス、石材、自動車の車内にクリア塗装ができる光触媒コーティング剤や、酸化チタンから下地を守るプライマーの開発。その後も、さまざまな材質に光触媒を定着するための研究を続け、多くの企業で採用されています。