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銅ドープ酸化チタンのトルエン脱臭装置への応用検討

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銅ドープ酸化チタンのトルエン脱臭装置への応用検討

トルエンとは、ベンゼン環にメチル基が1つ結合した芳香族炭化水素です。化学式はC6H5CH3です。

トルエンは塗料や接着剤の溶剤として利用されており、揮発性が高いので、とても都合が良い物質です。

ところが、臭いが強いことやトルエンによってアレルギーを引き起こす人、シックハウスになる人もいるようなので、問題となることがあります。

消臭剤の散布や活性炭などによる脱臭もありますが、ランニングコストがかかります。光触媒であれば、ランニングコストを抑えて、トルエンの臭気対策が可能です。

この記事では、トルエン脱臭装置の開発を検討されている方に向けて、可視光応答型光触媒「銅ドープ酸化チタン(銅担持酸化チタン)」のトルエン脱臭装置への応用を解説いたします。

銅ドープ酸化チタンとは?

光触媒には、いろいろな種類があります。主な成分としては、アナターゼ型酸化チタンが有名です。銅ドープ酸化チタンとは、アナターゼ型酸化チタンにナノサイズの酸化銅を結合させた成分です。

アナターゼ型酸化チタンは、紫外線が当たると触媒効果を発揮する性質があります。その逆に、紫外線が当たらないと効果がありません。そういった性質を持つアナターゼ型酸化チタンなのですが、ナノサイズの酸化銅を結合させることによって、今まで紫外線にしか反応しなかったアナターゼ型酸化チタンが、紫色や青色、シアン(水色)の光にも反応して、触媒効果を発揮します。

次の図は、光の波長と色の関係に、アナターゼ型酸化チタンと銅ドープ酸化チタンが反応する波長領域を記載したものです。

アナターゼ型酸化チタンは、波長が380nmといった紫外線領域でしか反応しません。それに対して銅ドープ酸化チタンは、波長が480nmまでの領域で反応します。

光の波長とアナターゼ酸化チタンと銅ドープ酸化チタンが反応する波長領域

このように、可視光領域でも反応する光触媒のことを、可視光応答型光触媒といいます。可視光応答型光触媒には他にも、酸化タングステンや窒素ドープ酸化チタンといったものがありますが、光触媒コーティング剤として実用化されている光触媒の中では、銅ドープ酸化チタンがもっとも触媒効果を発揮することがNEDOや東京大学などの研究で明らかにされています。(「光触媒の新世界 市場との対話が生んだブレークスルー」をご参照ください。)

光触媒による触媒効果の高さで比較するならば、もっとも効果の高いものは、アナターゼ型酸化チタンに紫外線を当てたときです。可視光しか存在しない環境であれば、銅ドープ酸化チタンがもっとも効果があります。

銅ドープ酸化チタンでトルエンの分解が可能

さて、光触媒によるトルエンの分解について解説いたします。光触媒でもっとも触媒効果が高いものは、アナターゼ型酸化チタンに紫外線を照射したときですから、光触媒でトルエンを分解する場合、アナターゼ型酸化チタンと紫外線ランプを組み合わせたら良いと考えるかもしれません。

ところが、弊社にていろいろと試験をしていると、どうやらアナターゼ型酸化チタンでは、トルエンが分解できないことが判明しました。

アナターゼ型酸化チタンと銅ドープ酸化チタンのトルエン分解試験比較

次の図は、アナターゼ型酸化チタンと銅ドープ酸化チタンのトルエン分解試験結果を表したものです。トルエンが入った袋を3つ用意し、それぞれアナターゼ型酸化チタンが塗布されたタイル、銅ドープ酸化チタンが塗布されたタイル、無塗布のタイルを入れました。タイルの中央部の紫外線強度が1mW/cm2になるようにブラックライトを照射しました。温度は、室温です。

銅を添加した酸化チタン光触媒によるトルエンの分解試験結果

アナターゼ型酸化チタンは、ブラックライトの照射を開始してから3時間程度まではトルエンのガス濃度が20%ほど低下していることがわかります。しかし、それ以降は紫外線ランプを照射し続けてもトルエンが分解できていません。

それに対して銅ドープ酸化チタンは、紫外線ランプの照射を開始する前からトルエンの濃度が下がっており、紫外線照射後は急速に濃度が下がっていきました。24時間後の測定では、測定限界を下回りました。

なぜこのような結果になったのか?

トルエン分解試験結果を考察したいと思います。

まず、アナターゼ型酸化チタンでの試験では、最初は分解されていったのにも関わらず、3時間後には分解が止まってしまいました。ベンゼン環がアナターゼ型酸化チタンに悪影響を及ぼして、触媒効果を弱めてしまった可能性があります。同じような現象は、トルエンだけでなく、キシレンやスチレンの分解試験でも見られたからです。

どのような影響を与えてしまったのかは、今後調査していく予定です。

それに対して、銅ドープ酸化チタンは、紫外線を当てていないのにも関わらずトルエンを分解し、さらには紫外線を当てるとトルエンをグングンと分解していきました。

これは、おそらく銅ドープ酸化チタンに添加されているナノサイズの酸化銅が、常温でも触媒効果を発揮したためだと考えられます。そして、紫外線を照射したら酸化チタンから発生する自由電子が効率的にOHラジカルを発生させて、トルエンの分解を加速させたものと考えます。

触媒を使ったトルエン脱臭装置への応用

銅ドープ酸化チタンを使ったトルエン脱臭装置への応用を検討したいと思います。

先ほど、銅ドープ酸化チタンを使うと、室温でもトルエンを分解していくことが判りました。この理由は、酸化チタンに結合したナノサイズの酸化銅が触媒効果を発揮したものと考えられます。

市販されているトルエン脱臭装置には、銅を触媒として用いたものが存在します。この装置では、銅を数百度まで加熱しないと触媒効果を発揮しません。ところが、ナノサイズの酸化銅は、室温でも高い触媒効果を発揮するようなのです。

トルエン脱臭装置に、銅そのものではなく、銅ドープ酸化チタンを用いることによって、紫外線ランプを照射するだけで、加熱しなくてもトルエンを分解できるので、電気代が安くなります。

トルエン脱臭装置では、銅ドープ酸化チタンをコーティング塗装されたステンレスメッシュフィルターと紫外線ランプを交互に入れるだけですから、装置の構造も簡単です。

なお、ステンレスメッシュフィルターに銅ドープ酸化チタンをコーティング加工したら、300℃くらいに加熱することで、ステンレスと銅ドープ酸化チタンが強く結合するので、耐久性が高まります。ステンレスの加熱については、「酸化チタン光触媒コーティングの加熱は何度まで?加熱処理温度の目安」をご参照ください。

活性炭を利用したトルエン脱臭装置への応用

次に、活性炭を利用したトルエン脱臭装置を検討してみたいと思います。活性炭を利用したものは、トルエンを吸着する脱臭装置となります。

活性炭はミクロンサイズの多孔質です。そのような構造によって、トルエンなどのガスを吸着することができます。トルエンを吸着すると、孔が目詰まりしていって、いずれ吸着ができなくなります。すると、活性炭を交換します。

ここで、活性炭に銅ドープ酸化チタンをコーティングしたらどうでしょうか?

活性炭がトルエンを吸着し、吸着されたトルエンが銅ドープ酸化チタンによって分解され続けます。つまり、活性炭が半永久的にトルエンを吸着し続けるようになります。

これは、活性炭メーカーからすると禁断の製品となります。なぜなら、一度導入されたら、長期間交換の必要がなくなり、売上が下がってしまう恐れがあるからです。しかし、トルエン脱臭装置を求める企業様からすると、夢のような製品です。

弊社は、活性炭の表面だけに銅ドープ酸化チタンを塗装する特許技術を持っているので、禁断の活性炭を製造したいとお考えのメーカー様がいらっしゃいましたら、お気軽にお声がけください。

乾式スクラバーやチャンバーへの応用

次に、トルエンの排気についてです。乾式スクラバーに光触媒加工された活性炭を設置するものです。

乾式スクラバーだけでなく、排気ダクトのチャンバーに活性炭を設置する方法もあります。チャンバーとは、ダクトに接続される箱のことです。

排気チャンバーの中に、銅ドープ酸化チタンをコーティング加工したステンレスメッシュフィルターや活性炭フィルターを設置するものです。チャンバー内で紫外線ランプを照射させたら、なお効果的です。

トルエンの脱臭能力を高めたい場合は、フィルターと紫外線ランプを交互に何重にも重ねると良いでしょう。

それらをカートリッジ式にして、トルエンの濃度に応じてチャンバー内に設置できるような装置を開発することも可能だと思います。

乾式スクラバーやトルエン脱臭装置やダクトを開発されている企業様で、トルエン脱臭チャンバーを開発したいとお考えの企業様がいらっしゃいましたら、支援させていただきます。

以上、銅ドープ酸化チタンを使ったトルエン脱臭装置への応用についてご説明いたしました。これらの装置については、今のところ特許を取得しておりませんから、「光触媒を活用したトルエン脱臭装置を開発したい」とお考えの企業様がいらっしゃいましたらご相談ください。

この記事の著者/責任者

島田幸一

株式会社イリス 代表取締役
島田 幸一 (Shimada Koichi)

私はもともと、地元農業のソリューション提供を事業としていたが、野菜や果物の劣化を促進させるエチレンガスの分解を研究したことで、光触媒の可能性を感じ起業いたしました。運よく可視光でも効果のある酸化チタン光触媒を世界で初めて開発して脚光を浴び、さまざまな業種のお客様から注文をいただける企業にまで成長できました。現在弊社は、可視光応答型光触媒を使ったコーティング剤を始め、外壁やガラス、石材、自動車の車内にクリア塗装ができる光触媒コーティング剤や、酸化チタンから下地を守るプライマーの開発。その後も、さまざまな材質に光触媒を定着するための研究を続け、多くの企業で採用されています。

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