
酸化チタン光触媒コーティングとは、酸化チタンを使った液剤を塗装するコーティング加工のことです。
その液剤のことを、光触媒コーティング剤といいます。
光触媒コーティング加工された製品を高温化で使用する場合もあるかもしれません。また、バインダーにアモルファス酸化チタンを使った光触媒コーティング剤は、熱処理をすることがあります。
光触媒コーティング剤はいろいろなものに塗装できますが、塗装面の材質によっては、摩擦によってコーティングが落ちやすく、耐久性が悪い場合があります。そのような材質の場合には、コーティング塗装をした後に、加熱処理をすると耐久性が高まります。
「酸化チタンは、加熱すると効果が弱まる」と言われていますが、何度まで耐えられるのかをご説明いたします。光触媒コーティング加工をお考えの方は、ぜひ覚えておいてください。
酸化チタン光触媒の結晶構造
酸化チタンは、次のような種類の結晶構造を持つと言われています。
- アナターゼ型(アナタース型)
- ルチル型
- ブルッカイト型
一般的な結晶構造は、アナターゼ型とルチル型です。光触媒として利用されるのはアナターゼ型です。ブルッカイト型は、特殊な結晶構造ですから、一般的には光触媒コーティング剤として利用されません。
アナターゼ型とルチル型を比べると、アナターゼ型を光触媒として利用します。ルチル型も光触媒としての性質があるのですが、アナターゼ型の方が触媒効果が高いからです。
酸化チタンは加熱すると結晶構造が変化する
酸化チタンの結晶構造は、加熱していくと変化することが知られています。アナターゼ型は、加熱していくとある一定温度でルチル型に変化します。その温度は、600~700℃以上です。600℃まででしたら、アナターゼ型はルチル型に相転移しにくいですが、それ以上の温度になると相転移してしまい、触媒効果が弱くなってしまいます。
光触媒製品を600℃以上で使用することは、まずありませんし、光触媒加工でもそのような温度まで加熱することは、ほとんどありません。ですが、念のため使用温度は600℃くらいまでに抑えておいた方が良いです。
光触媒コーティング塗装したものを加熱すると、「相転移して効果が弱くなってしまうのではないか?」と考え、「加熱加工をしても良いのだろうか?」と心配になります。
自動車の触媒が効果を発揮する温度は300℃前後と言われていますが、自動車に限らずいろいろな触媒に酸化チタン光触媒加工をすることで、効果が高まる可能性があります。酸化チタン光触媒は300℃でしたら余裕で耐えられるので、いろいろな触媒に加工して利用できるかもしれません。
光触媒コーティング加工での加熱処理
光触媒コーティング剤のバインダーにアモルファス酸化チタンを使ったものは、液剤を塗装した後に加熱処理をすると、光触媒成分が塗装面に強固に付着します。
光触媒加工をお考えの方は、光触媒コーティング塗装をした後に加熱して、強固に定着させたい場合、「何度くらいまで加熱したら良いのだろうか?」と思われることでしょう。
その温度は、何に加工するのかによって異なります。なぜなら、材質によっては高温に加熱すると溶けたり、燃えてしまったりするものもあるからです。プラスチックはその典型です。
ステンレスの光触媒コーティング塗装後の加熱温度

弊社にご相談のある光触媒加工では、ステンレスの表面への光触媒加工で加熱処理をおすすめしています。
光触媒加工して利用されるステンレス製品は、何かと接触や摩擦が多いからです。
例えば、ステンレスのレンジフードに光触媒コーティング加工をする場合には、レンジフードに付着した油脂を清掃するときに、スポンジや布巾などで拭くことで摩擦が生じます。その摩擦によって、少しずつ光触媒コーティングが落ちていってしまい、いずれ光触媒コーティングの効果が無くなってしまいます。
清掃をしても、光触媒コーティング加工が強固に定着して、清掃などの摩擦で落ちにくくするために、加熱加工します。
ステンレスの加熱加工の温度は300℃以上がおすすめです。低い温度ですと、強固に定着しないわけではありませんが、より強固に定着させるためには高い温度が望ましいです。そのため、そのようなことで300℃以上に加熱すると強固に定着します。
しかし、ステンレスは高温になると色が変化し始めます。弊社の経験では、150℃を超えてくると色が変化してくるので、ステンレス製品の商品価値が下がってしまう恐れがあります。
色の変化が気にならない製品であれば、300℃以上での加熱をおすすめします。色の変化が気になる場合は、雰囲気炉で不活性ガスや中性ガスを用いて加熱するか、150℃以下での加熱でもかまいません。150℃でも加熱をすることで強固になりやすいです。
プラスチックの光触媒コーティング加工の加熱温度

プラスチックに光触媒コーティング加工する場合は、何度くらいまで加熱したら良いのでしょうか?
300℃まで加熱すると、間違いなく変形したり、変質してしまいます。
しかし、あまりにも低い温度であれば、強固に定着するのですが、より強固に定着しにくいので、加熱するだけムダということになります。
プラスチックの加熱温度は50℃以上がおすすめです。もちろん、高温に耐えられるプラスチックであれば、耐えられる温度まで加熱していただいてかまいません。
成型機から出てきたばかりのプラスチックは数百度まで加熱されていますから、そのまま表面に光触媒コーティング塗装をしたら、光触媒が強固にコーティングされるのではないかと思います。
陶磁器への光触媒コーティング加工の加熱温度

トイレの便器などの陶磁器に、強固に光触媒コーティング加工することで、陶磁器の汚れが落ちやすくなります。
光触媒コーティング塗装をした後は加熱処理をして、光触媒成分を陶磁器に強固に付着するようにしてください。
陶磁器はとてもツルツルしているので、光触媒コーティング塗装をしたままですと、掃除による摩擦で落ちやすいからです。
ステンレスやプラスチックと同様に、陶磁器に光触媒コーティング塗装をした後に加熱処理をすると、より強固に光触媒が定着します。
トイレの便器などの陶磁器を焼結させるときに、釉薬の表面に光触媒コーティングをしてから加熱すると、間違いなくアナターゼ型はルチル型に結晶構造が変化してしまいます。焼結温度が1,100℃程度になるためです。
陶磁器の場合は、釉薬をかけて焼成後に冷却させた製品の表面に光触媒コーティング塗装してから、上絵窯にて600~700℃で加熱処理します。
以上、酸化チタン光触媒が耐えられる温度をご説明いたしました。その温度は、アナターゼ型が変質しない600℃までです。念のため、使用温度は600℃くらいまでに抑えておいた方が良いです。
光触媒コーティング塗装をしたあとに、酸化チタンをより強固に定着させるための加熱処理は、ステンレスの場合は300℃程度、ステンレスの色の変化が気になる場合は還元窯を用いるか、150℃以下で加熱します。プラスチックの場合は50℃程度をおすすめします。陶磁器の場合は、冷めたものの表面に光触媒コーティング塗装をしてから上絵窯にて600~700℃で加熱処理したら良いと思います。
光触媒コーティング加工のことなら、弊社までお気軽にご相談ください。
この記事の著者/責任者

株式会社イリス 代表取締役
島田 幸一 (Shimada Koichi)
私はもともと、地元農業のソリューション提供を事業としていたが、野菜や果物の劣化を促進させるエチレンガスの分解を研究したことで、光触媒の可能性を感じ起業いたしました。運よく可視光でも効果のある酸化チタン光触媒を世界で初めて開発して脚光を浴び、さまざまな業種のお客様から注文をいただける企業にまで成長できました。現在弊社は、可視光応答型光触媒を使ったコーティング剤を始め、外壁やガラス、石材、自動車の車内にクリア塗装ができる光触媒コーティング剤や、酸化チタンから下地を守るプライマーの開発。その後も、さまざまな材質に光触媒を定着するための研究を続け、多くの企業で採用されています。