酸化チタン光触媒コーティングは、主に屋外の外壁や看板、窓ガラスなどに使用されるコーティング剤です。
塗装面の防カビや防苔、防汚が主な目的です。
この記事では、酸化チタンという金属の粉がなぜ外壁や窓ガラスに定着できるのか、酸化チタンによってどのように防カビや防苔、セルフクリーニング(防汚)ができるのか、酸化チタン光触媒コーティングの仕組みを解説いたします。
酸化チタンをコーティング剤にする仕組み
酸化チタンとは?
酸化チタンとは、チタンという金属が酸化した物質です。チタンは、身近なものとしては、アクセサリーやハンコに利用されていたり、酸化チタンは化粧品の白粉や日焼け止めクリームの中にも入っています。
酸化チタンは、光を当てると光触媒の効果を発揮する物質の一つです。光触媒とは、光エネルギーを受けることで、触媒の効果を発揮する成分です。酸化チタン以外にも、酸化タングステンが代表的です。
光触媒の効果によって有機物を分解するので、それをコーティング剤にして塗布すると、除菌や防カビ、消臭、化学物質の分解といった効果を発揮します。ところが、コーティング剤の成分そのものも分解するので、耐久性の高いコーティング剤を開発するためには工夫が必要です。
酸化チタンの結晶構造
酸化チタンは、いろいろな結晶構造があり、その結晶構造によって光触媒の性質が異なります。結晶構造の名前を列挙すると、次の通りです。
- アナターゼ型(アナタース型)
- ルチル型
- ブルッカイト型
- アモルファス型(非結晶型)
アナターゼ型とルチル型が一般的な結晶構造です。アモルファス型は結晶構造を持たない酸化チタンです。
これらの中で、光触媒として利用されるものがアナターゼ型です。アナターゼ型は、他の結晶構造と比べて高い光触媒の効果を発揮するからです。
アモルファス型は、非結晶ですので結晶構造を持ちませんが、酸化チタンを使ったコーティング剤を塗装面に固定化させる接着剤(バインダー)として用います。
酸化チタンをコーティング剤にするための工夫
光触媒は有機物を分解する性質があります。酸化チタンをコーティング剤にするときに、バインダーに有機物を用いたら、酸化チタンが塗料を分解してしまいます。すると、塗料の色が変色したり、耐久性が悪くなったりします。
光触媒を使った塗料がクレームになりやすいのは、そのためです。大手メーカーにて、「耐久性が20年以上」といわれていた性能を信じて塗料を使用したユーザーが、5年ほど経過したら色あせをしてしまって、クレームになった事例もありました。
そこで、アナターゼ型酸化チタンで腐食されないアモルファス酸化チタンを用いる仕組みです。アナターゼ型酸化チタンとアモルファス酸化チタンは、結晶構造を持つものか、そうでないかの違いであって、同じ酸化チタンですから、アモルファス酸化チタンはアナターゼ型酸化チタンによって腐食することはありません。
酸化チタンが外壁や窓ガラスに定着する仕組み
酸化チタンは金属の粉末ですが、金属の粉末を外壁や窓ガラスに擦り付けても、パラパラと落ちていくだけです。なぜ酸化チタンが外壁や窓ガラスに定着するかと言えば、次の2つのことをしているからです。
- ナノサイズの酸化チタンの粉末を用いている
- 接着剤(バインダー)を添加している
ナノサイズの酸化チタンの粉末を用いている
ナノサイズとは、1mmの1,000分の1の長さを、さらに1,000分の1にしたものです。それくらいの細かな酸化チタンの粉末を用いています。大きな粒は、風の力や重力などですぐに落ちていってしまいますが、細かな粉末は付着しやすくなります。また、細かな粉末は、触媒としての効果が高くなります。
接着剤(バインダー)を添加している
そして、その細かな酸化チタンの粉末を接着剤(バインダー)で固定します。バインダー成分には、有機物系のものとアモルファス酸化チタンが用いられているものがあります。アモルファス酸化チタンは無機系に分類されます。
酸化チタンは光触媒の効果によって有機物を分解する性質があるため、有機物系のバインダーを用いた光触媒コーティング剤は、著しく耐久性が悪くなります。それに対して、アモルファス酸化チタンを用いたものは、光触媒成分の酸化チタンと同じ成分ですので、劣化することがなく、耐久性がとても長くなります。
なお、光触媒成分として用いられる酸化チタンの結晶構造は、アナターゼ型(アナタース型)と言われるものです。アモルファス型は非結晶のことです。
クリア塗装ができる仕組み
光触媒コーティング塗装は、色の成分が入った光触媒塗料の塗装と違って、クリア塗装ができます。クリア塗装とは、透明な塗装のことです。
酸化チタンは、もともと白い粉ですので、塗装をしたら白色になるように思いますが、ナノサイズの酸化チタンを用いていることや、それを薄く均一に薄く塗装することによって、クリア塗装が可能となります。
次の図をご覧ください。
左側が薄く均一に酸化チタンを塗装したものです。右側が厚く塗装したものです。薄く均一に塗装したときには、壁の色が見えます。厚く塗装をしたときには、酸化チタンに反射した光が見えます。
金箔は光にかざすと青く透けて見えることがあるそうです。金箔の厚さが0.0001mm(0.1μm)の厚さですので、青色の光が透けて見えるようです。酸化チタンのクリア塗装もこれと同じ要領で透けて見え、金箔の厚さよりもさらに薄く塗るのでクリア塗装ができます。酸化チタンをもっと薄く均一に塗布ができるコーティング剤を、均一に薄く塗装する腕前でもって可能となります。
では、塗装する腕前が悪ければ、どのような色が出るのでしょうか。それは、酸化チタンによるプリズムの効果が出てしまい、虹色に見えてしまうことがあります。酸化チタンの厚みが異なり、光が屈折して虹色の模様に見えるのです。
もし虹色が出てしまったら、塗装された酸化チタンを剥がすと良いのですが、アモルファス酸化チタンで固定化されたら、紙ヤスリで磨くぐらいの研磨をしないと落とすことができません。窓ガラスへの光触媒コーティングは、塗装技術を要します。
酸化チタンによる防カビ・防苔の仕組み
光触媒成分であるアナターゼ型酸化チタンが、防カビや防苔をする仕組みを図で解説いたします。次の図をご覧ください。
この図は、外壁の壁面に光触媒コーティングをした図です。
①アナターゼ型酸化チタンは、紫外線が当たると、その表面にOHラジカルやスーパーオキシドアニオンという活性酸素を発生させます。OHラジカルはとても酸化力の強い活性酸素で、有機物を分解してくれます。
②壁面にカビ菌や苔、それらの胞子が飛来してきます。すると壁面に発生してるOHラジカルと結合します。OHラジカルは有機物を酸化して分解する性質があるので、カビ菌やその胞子、苔や苔の胞子といった微生物も有機物ですから、それらを分解する効果があります。③つまり、アナターゼ型酸化チタンを外壁に塗装することで、カビの除菌効果や防苔効果が得られます。
紫外線は太陽光からさんさんと降り注いでいるので、アナターゼ型酸化チタンを光触媒活性させることに事欠きません。そして、光触媒活性したアナターゼ型酸化チタンにカビ菌や苔が付着しても、すぐに酸化される仕組みです。
酸化チタンによるセルフクリーニング効果の仕組み
外壁や窓ガラスに汚れが付着する理由は、空気中の油分です。その油分にPM2.5などの成分などが付着して、汚れが目立っていきます。
アナターゼ型酸化チタンは、紫外線を受けることで活性酸素を発生させ、有機物を分解しますが、外壁や窓ガラス、看板などに付着する油汚れを分解してくれます。また、アナターゼ型酸化チタンの親水性の効果によって、雨水が塗装面になじむので、汚れと光触媒コーティング面の間に雨水が入り込んで汚れを浮かせ、汚れが流れ落ちる仕組みです。
次の図をご覧ください。
光触媒を、外壁や窓ガラスの塗装面に塗装します。そこに汚れが付着するわけですが、図の茶色い部分です。外気中や雨水の中の油分が外壁や窓ガラスに付着したり、目地の部分からシリコンオイルが染み出てきたりして、その油分に空気中の汚れが付着し、汚れが目立ってきます。
①光触媒を塗装しておくと、付着した油分や汚れそのものを分解してくれるのですが、分解された油分は落ちやすい状態になります。②そこに雨が降ってきて、光触媒の親水性の効果によって、汚れと光触媒の間に水が入り込みます。すると、③のように雨水といっしょに汚れが流れ落ちる仕組みです。
このように、雨水によって自動的に汚れが落ちる仕組みのことを、セルフクリーニングと言います。
セルフクリーニングの詳細は、「光触媒のセルフクリーニングとは?」をご覧ください。
以上、酸化チタン光触媒コーティングの仕組みについて、酸化チタンが光触媒コーティング剤として存在する仕組み、クリア塗装ができる仕組み、防カビや防苔ができる仕組み、セルフクリーニングや防汚の仕組みを解説いたしました。
当社は、酸化チタン光触媒コーティング剤の製造・販売をしている企業です。光触媒コーティング剤を導入したい企業様、光触媒コーティング施工をしてもらいたい一般ユーザーのお客様など、光触媒コーティングのことなら、弊社までお気軽にご相談ください。
この記事の著者/責任者
株式会社イリス 代表取締役
島田 幸一 (Shimada Koichi)
私はもともと、地元農業のソリューション提供を事業としていたが、野菜や果物の劣化を促進させるエチレンガスの分解を研究したことで、光触媒の可能性を感じ起業いたしました。運よく可視光でも効果のある酸化チタン光触媒を世界で初めて開発して脚光を浴び、さまざまな業種のお客様から注文をいただける企業にまで成長できました。現在弊社は、可視光応答型光触媒を使ったコーティング剤を始め、外壁やガラス、石材、自動車の車内にクリア塗装ができる光触媒コーティング剤や、酸化チタンから下地を守るプライマーの開発。その後も、さまざまな材質に光触媒を定着するための研究を続け、多くの企業で採用されています。