光触媒を利用すると、除菌やウイルス対策、防カビ、消臭、防汚、化学物質(有機化合物)の分解などの効果が期待できます。酸化チタンの光触媒スプレーなども市販されています。
これらの効果は魅力的です。
光触媒の代表的な成分「酸化チタン」は、紫外線が当たりさえすれば、光触媒の性質を持つ金属の中で、最も効果があります。ところが、この性質は紫外線が当たったときのみですから、酸化チタンを使った光触媒コーティング剤や消臭スプレーは、室内では効果が無い場合があります。
でも、ご安心ください。紫外線が当たらない室内でも高い効果を発揮する光触媒も存在します。
この記事では、酸化チタンを使った光触媒コーティング剤が室内で効果がない理由や、室内でも効果の高い可視光応答型酸化チタンについて詳しく解説いたします。
効果のある光触媒を使って、室内環境を良くしたいとお考えの方は、「効果が無かった」とガッカリしたり、「光触媒はいらない」と考える前に、ぜひ最後までご覧ください。
酸化チタン光触媒が室内で効果がない理由
酸化チタンは、紫外線が当たると光触媒の効果が高いことで知られていますが、「室内では紫外線が極端に少ないので効果が出ない」という弱点があります。その理由を少し詳しく解説します。
光の波長
酸化チタンが室内で光触媒としての効果がない理由をご説明する前に、光の波長についてご説明したいと思います。
少し難しい話になるかもしれませんが、酸化チタンが室内で効果のない理由につながるので、少しお付き合いください。
光には波長があります。その波長によって人が感知できる色の違いが出てきます。
人が見ることが出来る色の光のことを、「可視光(可視光線)」と言います。
この後も、「可視光」という言葉がよく出てくるので、覚えておいてください。
可視光には、青色や緑色、赤色などがあります。これらの色の違いは、光の波長の違いでもあります。光は、音波のように波の性質があり、波の振幅の長さを「波長」と言います。光の粒子は同じであっても波長が違うと、異なる色で見えるのです。
海岸に打ち寄せる波の波長は、10mだと思います。1つの波が打ち寄せたときに、次の波は10m先にあります。それに対して、光の波長はとても短いです。
光の波長と光の色の関係は、おおよそ次のようになります。
- 380nm=紫色
- 450nm=青色
- 500nm=水色
- 550nm=緑色
- 580nm=黄色
- 600nm=橙色
- 650nm=赤色
nmの「n」はナノ(10億分の1)です。nmの読み方は「ナノメートル」です。赤色は800nm程度と、波長の長い色になります。紫色は波長が380nm程度と、可視光の中でも最も波長の短いものです。赤色が650nm程度と可視光の中で最も長い波長です。
紫色よりも波長の短い光、例えば350nmの光を人は見ることができません。紫色よりも波長の短い色の光のことを紫外線と言います。紫色の外の光線です。外出するときに日焼け止めを塗りますが、その紫外線のことです。略してUVとも言います。
また、赤色の波長よりも長い光も同様で、例えば850nmの波長の光を人は見ることができません。そのような光のことを、赤外線と言います。赤色の外の光線です。サウナに行くと、赤外線効果ということを耳にすることがありますが、その紫外線です。紫外線は波長が長いので、身体を浸透する性質があり、身体の中から温めてくれる効果があります。
光の波長のことをご理解いただいた上で、光触媒と波長の話に入りたいと思います。
さて、光触媒にはいろいろな種類があり、物質によっていろいろな波長の光を受けて光触媒の効果が出てくるのですが、物質によって効果の出やすい光の波長と出にくい光の波長があります。
酸化チタンの活性と室内で効果が出ない理由
酸化チタンが最も光触媒としての効果が出やすい波長が、380nmよりも短い波長の光です。つまり、酸化チタンは紫色や紫外線の光によってのみ光触媒の効果が出るということになります。
室外では、太陽の光が降り注いでいます。太陽の光は白く見えますが、これはいろいろな色の光が重なったときに白く見えます。太陽光には可視光以外にも、紫外線や赤外線も含まれています。
私達が外出するときは、日焼け止めクリームを塗りますが、紫外線から肌を守るためです。太陽光に当たると、たくさんの紫外線を受けることになります。
ところが、室内にいるときは日焼け止めクリームは塗りません。つまり、室内では酸化チタンが光触媒の効果を発揮する紫外線や紫色の光が、外と比べて著しく少ないのです。
次の図は、一般的な白色LEDから出ている光の分布です。「スペクトル」と言います。横軸が光の波長、縦軸が光の強さです。紫色から赤色までの光が出ており、青色のところの光がたくさん出ています。
このスペクトルに、酸化チタンが活性する光の波長の部分を、矢印で入れてあります。酸化チタンが反応する光は、白色LEDからはまったく出ていません。つまり、酸化チタンは白色LEDの光が当たっても、光触媒の効果を発揮しないのです。
そのため、酸化チタンだけを用いた光触媒コーティング剤は、室内では効果が出ないことがあるのです。
可視光でも効果のある光触媒は無いのか?
ここで、「可視光でも効果のある光触媒は無いのか?」と思われたことでしょう。もちろんございます。可視光でも効果のある光触媒のことを、「可視光応答型光触媒」と言います。その代表的な成分が酸化タングステンです。
酸化タングステンだと光触媒の効果が弱い
酸化タングステンを用いた光触媒コーティング剤は、一時期、「可視光領域の光でも効果がある光触媒だ」ということで、光触媒製品のメーカーから、酸化タングステンのみや、酸化チタンと酸化タングステンのハイブリッドのものが販売されたことがありました。
ところが、酸化タングステンは光触媒の効果が弱いのです。
メーカー製品のホームページを見てみると、「室内の光で酸化チタンと比較して、高い除菌・消臭効果が得られる」と銘打っていました。確かに室内の可視光では酸化チタンよりも光触媒の効果はあるものの、満足のいくような結果が得られません。
一言、言わせてもらえば、「紫外線にしか反応しない酸化チタンと、室内の光で効果を比較することは、意味がない」ということです。できれば、室内の光で効果のある、他の光触媒成分と比較してもらいたいものです。
そのメーカー品の塗料は、当初とても注目されましたが、その後にたくさんのクレームが入り、その対応で大きな損失を出してしまったようで、一部製品を除いて撤退してしまいました。
世界で初めて室内でも効果の高い可視光応答型酸化チタンを開発
そのような背景の中、弊社では20年ほど前に「酸化チタンを用いた可視光でも効果の高い光触媒コーティング剤を開発できないだろうか?」と考えました。
そこで、他の光触媒コーティング剤メーカーに、「可視光でも効果のある酸化チタンの光触媒を開発できないか」と問い合わせてみましたが、どのメーカーからも「そのようなことは不可能だ」と言われ断られてしまったので、自社で開発することにしました。
数々の実験を繰り返し失敗の山を築いて、2年ほど経過した2002年11月頃、たまたま「銅は抗菌効果があるので、銅を加えたら良いのではないか?」と思い至り、実験しました。すると、夢にまでも見た可視光でも高い効果のある酸化チタン光触媒ができました。すぐさま特許を取得し発表しました。
そのときは、なぜ銅を入れたら可視光でも効果が高いのか判りませんでしたが、その後に東京大学などの研究機関がメカニズムを解明してくださいました。メカニズム解明は、東京大学の「光触媒の新世界 市場との対話が生んだブレークスルー」が参考になります。銅が加えられた酸化チタンを、「銅ドープ酸化チタン」と名付けられました。
銅ドープ酸化チタンの性能の高さ
次の図は、先ほどの白色LEDのスペクトルに、銅ドープ酸化チタンが活性化する光の矢印を加えたものです。銅ドープ酸化チタンが光触媒の効果を発揮する光と、白色LEDから出ている光が被っています。
酸化チタンそのものでは、紫外線にしか反応しないので、室内では効果がないと言われます。このスペクトル図が示すように、銅ドープ酸化チタンであれば室内の光でも高い効果を発揮します。
また、酸化タングステンは室内の光でも触媒の効果を発揮しますが、その効果は弱いものです。それに対して、銅ドープ酸化チタンは、酸化タングステンと比べて、5~7倍ほどの効果を発揮するようです。
実際に、弊社が開発した銅ドープ酸化チタンを採用された施工店様からは、「酸化タングステンを使用していたときは、施工後1年もしないうちに『部屋の中にカビが生えた』とクレームが何件も発生したが、銅ドープ酸化チタンを使ってから、クレームが1件も無くなった」とお喜びの声をいただいております。
ちなみに、その施工店様が採用されたのは、銅ドープ酸化チタンを使った光触媒コーティング剤「屋内用光触媒コーティング剤(BX01-AB1)」です。
この製品は、開発後からさらに改良を加え、効果や耐久性などを改善し、ロングセラー商品となっています。
この製品の塗装は、専用の塗装機械やスプレーガンが必要ですので、業務用製品とさせていただいています。ご利用になられたい方は、弊社の製品を扱う施工店にご相談ください。施工店の一覧は、こちらのページをご覧ください。
銅ドープ酸化チタンは暗闇でも効果あり
銅ドープ酸化チタンには、その後の研究で、さらに驚くべき効果があることが判りました。それは、光が当たらない暗闇でも触媒の効果を発揮するという画期的な効果です。
銅ドープ酸化チタンが効果を発揮する条件は、紫外線が当たることはもちろんのこと、可視光でも強い効果があり、さらには光がなくても効果があるのです。
- 紫外線で効果・・・酸化チタン、酸化タングステン、銅ドープ酸化チタン
- 可視光で効果・・・酸化タングステン(ただし弱い)、銅ドープ酸化チタン
- 暗闇で効果・・・銅ドープ酸化チタン
暗闇でも効果があるということは、銅ドープ酸化チタンは次のような場面でも、利用できるということです。
- エアコンの内部の防カビ
- 押し入れやクローゼットの中の消臭や防カビ
- 普段利用しない締め切った別荘のカビ対策
- 靴やブーツ、長靴の中の除菌や消臭(もちろん靴下も)
- 下駄箱の消臭
- お風呂場の防カビ
- 地下室や床下収納の防カビ
このような、一般的な光触媒では効果がない場所でも、銅ドープ酸化チタンなら除菌や防カビ、消臭が可能です。
まとめ
酸化チタン光触媒が室内では効果が無い理由は、酸化チタンが光触媒の効果が出やすい紫外線や紫色の光が、室内では少ないからです。
室内では可視光の光は多いので、可視光でも光触媒の効果のある銅ドープ酸化チタン光触媒があれば、除菌や防カビ、消臭などが可能です。さらには、銅ドープ酸化チタンは光のないところでも、触媒の効果を発揮します。
そのような夢のような光触媒成分を使い、光触媒コーティング剤や光触媒スプレーを開発しました。
業務用光触媒コーティング剤は「屋内用光触媒コーティング剤(BX01-AB1)」、一般向けのご家庭用除菌・消臭スプレー「アキュートクリーン」です。
アキュートクリーンはご家庭用ですが、宿泊施設の厨房の除菌・消臭やテナントビルのトイレの除菌・消臭などの業務用としてもご利用いただいています。
他にも、自動車用のコーティング剤やペットの消臭用などのスプレーなども開発いたしました。
可視光でも効果の高い光触媒コーティングなら、弊社までご相談ください。
この記事の著者/責任者
株式会社イリス 代表取締役
島田 幸一 (Shimada Koichi)
私はもともと、地元農業のソリューション提供を事業としていたが、野菜や果物の劣化を促進させるエチレンガスの分解を研究したことで、光触媒の可能性を感じ起業いたしました。運よく可視光でも効果のある酸化チタン光触媒を世界で初めて開発して脚光を浴び、さまざまな業種のお客様から注文をいただける企業にまで成長できました。現在弊社は、可視光応答型光触媒を使ったコーティング剤を始め、外壁やガラス、石材、自動車の車内にクリア塗装ができる光触媒コーティング剤や、酸化チタンから下地を守るプライマーの開発。その後も、さまざまな材質に光触媒を定着するための研究を続け、多くの企業で採用されています。