酸化チタンは広く利用されている光触媒成分です。紫外線を吸収して、強力な光触媒の効果を発揮します。
もし、酸化チタンが紫外線だけでなく、可視光をも吸収するようになったら、室内でも光触媒の効果を発揮するようになり、酸化チタン光触媒の応用が広がります。
酸化チタンを可視光活性させる方法はいくつかありますが、方法によって活性の強さに差があります。今現在知られている、最も可視光活性を高められる方法が、銅を添加する方法です。
この記事では、酸化チタンを可視光吸収させる理由や可視光吸収させる方法、銅を添加した銅ドープ酸化チタンの性能を解説いたします。
酸化チタンに可視光吸収させる理由とは?
酸化チタンは、紫外線に反応して光触媒としての効果を発揮します。その効果として、主なものは次の通りです。
- 除菌・防カビ
- 消臭(トイレやタバコの臭い、ペットの臭い、介護での臭いなど)
- アレルゲンの分解
- VOCの分解
- 油汚れの分解
- 親水性によるセルフクリーニング
酸化チタンは、紫外線が当たることでこれらの効果が得られますが、除菌や防カビ、消臭、VOCの分解などは、室内でも求められる効果です。しかし、室内の蛍光灯やLED電球といった照明では、紫外線がほとんど出ていないため、酸化チタンが光触媒の効果を発揮することはありません。
もし、酸化チタンが室内の光でも活性化させることができ、高い効果が得られるのであれば、私達の生活にとって革命的なことです。
酸化チタンを可視光吸収させる方法
酸化チタンを可視光吸収させる方法は、昔からいくつか知られています。
酸化チタンに金属をドープする
以前から知られていた方法は、酸化チタン以外の金属を添加することです。主な金属としては、次のようなものがあります。
- 亜鉛
- ニッケル
- 銀
- 白金
- クロム
これらの物質を添加することを、「ドープ」といいます。亜鉛がドープされた酸化チタンのことを、「亜鉛ドープ酸化チタン」といいます。
酸化チタンに金属以外の成分をドープする
金属以外にも、次のものを添加することができたら、可視光吸収します。
- 炭素
- 窒素
これらの中では、窒素ドープ酸化チタンが実用化されていますが、効果のほどはいまいちのようです。
酸化チタンを可視光吸収させ効果の高い成分とは?
これらの添加物を加えることによって、酸化チタンが可視光吸収することが知られていましたが、私達の生活の革命にまで至りませんでした。
その理由は、これらの成分を添加することで、確かに酸化チタンが可視光吸収するのですが、その効果が弱いものだったからです。効果が弱いと、室内の弱い光であれば、なおさら除菌や消臭の効果が弱まってしまうので、効果が実感できません。
酸化チタンを可視光吸収させ、なおかつ効果が実感できるほどの強い効果を持ち、安全性が高く、安価に製造できる成分の研究が続けられました。そして、2002年に弊社が、効果の高い成分と、その成分を酸化チタンに担持させる方法を、世界で初めて発見しました。
その成分とは、「銅」です。
銅が添加された酸化チタンの名称は、「銅ドープ酸化チタン」です。
除菌・消臭で最も効果の高い
可視光活性光触媒「銅ドープ酸化チタン」
酸化チタンを可視光吸収させ、しかも除菌・消臭で効果の高い可視光活性光触媒「銅ドープ酸化チタン」を解説いたします。
銅ドープ酸化チタンがなぜ最も効果が高いのか?
2002年に弊社が銅ドープ酸化チタンを発見したときは、あまりにもの効果の高さに、試験結果を疑ったほどです。何度試験しても高い効果が得られました。そのメカニズムの解明には、5年ほど待たれます。
弊社が銅ドープ酸化チタンの製造方法で特許を申請し、世に発表したところ、業界の内外から多くの反響をいただきました。すぐさま、東京大学などの研究機関や光触媒メーカーが追試を行い、2007年にはNEDOのプロジェクトも立ち上がり、メカニズムや効果の高さが実証されていきました。その詳細は、東京大学のホームページ「光触媒の新世界 市場との対話が生んだブレークスルー」が参考になります。
それによると、添加された銅が「助触媒」として酸化チタンに担持され、酸化チタンから発生する電子を光誘起電子移動によって銅が効率良く受け取るので、その励起電子によってOHラジカルが効率よく発生するようです。そのような効果によって、弱い光でも高い触媒の効果を発揮するようです。
暗所でも触媒効果を発揮する理由
銅ドープ酸化チタンには、弊社がさらに試験結果を疑う結果がありました。それは、暗所でも触媒の効果を発揮し、除菌・消臭ができたのです。
その理由は長らくわかりませんでしたが、どうやら酸化チタンに添加された銅はナノサイズなので、そのナノサイズの銅が高い触媒の効果を発揮していると思われます。東工大ニュース「貴金属に匹敵する触媒活性を示す安価な錆びた銅」によると、サブナノ酸化銅粒子が、既存の貴金属触媒にも匹敵する高効率な触媒活性を示すそうです。
紫外線照射でトルエンやキシレン、スチレンのVOCも分解可能
紫外線にしか反応しない酸化チタンが可視光吸収をし、室内の弱い光でも高い除菌・消臭の効果を発揮する銅ドープ酸化チタンですが、その銅ドープ酸化チタンに光エネルギーの強い紫外線を照射したらどうなるのでしょうか?
銅ドープ酸化チタンに紫外線を照射し、トルエンやキシレン、スチレンが分解できるかを試験しました。これらの成分は、酸化チタン単体では分解が難しいとされています。
試験結果は、VOCをみるみる分解していきました。無塗装、酸化チタン塗装、銅ドープ酸化チタン塗装の3種類で、VOCを分解できるかを比較試験しました。その結果は、次の図をご覧ください。
無塗装と酸化チタン塗装は、どれも無塗装と同じ程度の減少しかしていないので、ほとんど自然分解と同じ結果となりました。ところが、銅ドープ酸化チタンは3種類のVOCをみるみる分解していきました。
この試験結果の詳細は、「揮発性有機化合物(VOC)を分解できる光触媒成分とは?」をご覧ください。
以上、酸化チタンを可視光吸収させる理由や可視光吸収させる方法、銅を添加した銅ドープ酸化チタンの性能を解説いたしました。
銅ドープ酸化チタンを発見してから20年以上が経過しましたが、銅ドープ酸化チタンは今では多くの場所で利用されています。
例えば、大手自動車メーカーの高級車の光触媒として純正品に採用され、今でもご利用いただいています。また、光触媒加工された人工観葉植物、室内の除菌・消臭コーティング、屋外では外壁の防カビ・防苔剤としてもご利用いただいています。
工業用としては、空調機フィルターの除菌・防カビ・消臭として、ゴミ収集車には消臭剤として、また紫外線ランプと組み合わせた空気清浄機や水質浄化装置などにもご利用いただいています。光触媒加工された活性炭は、化学物質の吸着分解に利用されています。
銅ドープ酸化チタンの応用研究やOEM/ODM製造なら、弊社までお気軽にご相談ください。
この記事の著者/責任者
株式会社イリス 代表取締役
島田 幸一 (Shimada Koichi)
私はもともと、地元農業のソリューション提供を事業としていたが、野菜や果物の劣化を促進させるエチレンガスの分解を研究したことで、光触媒の可能性を感じ起業いたしました。運よく可視光でも効果のある酸化チタン光触媒を世界で初めて開発して脚光を浴び、さまざまな業種のお客様から注文をいただける企業にまで成長できました。現在弊社は、可視光応答型光触媒を使ったコーティング剤を始め、外壁やガラス、石材、自動車の車内にクリア塗装ができる光触媒コーティング剤や、酸化チタンから下地を守るプライマーの開発。その後も、さまざまな材質に光触媒を定着するための研究を続け、多くの企業で採用されています。