

光触媒にはいろいろな種類があります。もっとも利用されている光触媒は酸化チタンです。
酸化チタンに酸化銅を結合させた銅ドープ酸化チタンというものもあります。
銅ドープ酸化チタンは、同じ酸化チタンが機材となっていますが、酸化チタンとまったく異なる性質を持っています。
この記事では、酸化チタンと銅ドープ酸化チタンの反応波長や性質の違い、光触媒コーティング剤にしたときの用途の違いを解説いたします。
光の波長とは?
光子は、秒速約30万kmというとても速い速度で飛んでいます。1秒間に約30万kmも進む速度で移動していますが、その光が移動する間に、ものすごい早さで振動しています。光が目に入って色として見ることができますが、その色は光の振動によって異なります。
その振動を「波長」というもので表現します。波長が1mであれば、光が1m進む間に1回振幅しています。目に見える波長の光は、人によって異なりますが、おおよそ400nm~750nmです。
単位のnmとは、ナノメートルといいます。nが補助単位です。mは長さのメートルです。1mを1/1,000した長さは、1mm(ミリメートル)です。それをさらに1/1,000したものが、1μm(マイクロメートル)です。それをさらに1/1,000したものが、1nmです。光はものすごく細かく振動していることになります。
次の図をご覧ください。この図は、光の波長と色の関係を表したものです。

波長が380~400nm付近の色は紫色、400~450nmが青色です。450nmから500nmくらいまでがシアン(水色)、700nm前後が赤色という具合に、波長によって光の見える色が異なります。このような目に見える光のことを、可視光といいます。
380nmよりも波長の短い光や、780nmよりも波長の長い光もあります。そのような光は目で見ることができません。そういったことで、380nmよりも波長の短い光のことを紫外線、780nmよりも波長の長い光のことを赤外線といいます。目に見える外側の光ということです。
少しややこしい話をしましたが、光触媒の性質を知るためには、光の波長の理解が大事になります。
酸化チタンと銅ドープ酸化チタンが反応する光の波長
光触媒にはいろいろな種類があります。タイトルでも述べている酸化チタンが、今現在もっとも利用されている光触媒成分です。
光触媒が光エネルギーを受けて、触媒効果を発揮する状態になることを「反応する」とか「活性化する」といいます。光触媒は、どのような波長の光が当たったら活性化するのか、種類によって異なります。
次の図をご覧ください。この図は、先ほどの光の波長と色の関係に、酸化チタンと銅ドープ酸化チタンがそれぞれ反応する光の波長領域を記入したものです。

アナターゼ型酸化チタンの「アナターゼ」とは、酸化チタンの結晶構造のことです。酸化チタンの結晶構造には、一般的にはアナターゼ型とルチル型があります。アナターゼ型は、光触媒として一般的に利用されている結晶構造です。ルチル型と比べて、アナターゼ型の方が触媒効果が高いためです。
アナターゼ型酸化チタンが反応する光の波長は、380nm付近までです。それよりも波長の長い光が当たっても、反応しません。つまり、アナターゼ型酸化チタンは紫外線が当たらないと活性化しません。
それに対して銅ドープ酸化チタンは、480nm付近の波長を持つ光、紫色や青色、シアン(水色)の光が当たっても反応します。つまり、可視光でも活性化する光触媒です。このような光触媒のことを、可視光応答型光触媒といいます。
光触媒が活性化し抗菌や消臭ができるメカニズム
光触媒は、その成分が反応する波長を持つ光が当たることで、活性化することをご説明しました。光触媒によって抗菌や消臭ができるメカニズムは、少し難しくなります。
光触媒が活性化して放出されるOHラジカルによって酸化分解
光触媒は、光エネルギーを受けて励起電子や正孔が発生し、それによってOHラジカルといわれる活性酸素が発生します。OHラジカルが発生するメカニズムは、光触媒から発生した励起電子が空気中の酸素分子と結合して、それらがマイナスイオン化します。それが水分子と結合して過酸化水素となり、2つのOHラジカルに分離します。また、空気中の水分子と正孔が結合してもOHラジカルが発生します。
OHラジカルは強い酸化力を持つ活性酸素です。OHラジカルに触れたものは、酸化分解されます。酸化とは、熱で燃やして酸化させることと同じ効果のことです。
カビ菌やウイルスなどがOHラジカルに接触すると、接触部分が酸化分解されます。カビ菌であれば、表面の突起や細胞壁といったものが分解されてしまい、活動を抑制したり死滅させたりします。ウイルスも同様に分解されますが、ウイルスは菌類とくらべて圧倒的に小さなものですから、より分解されやすいと思います。臭い成分も同様です。
あまりにも酸化力が強いため、物質をすぐに酸化させてしまい、空気中に長くとどまっていられません。そのため、活性化した光触媒に菌類や臭い成分が接近したり付着したりすることで、それらを殺菌や消臭ができます。
銅ドープ酸化チタンは暗所でも触媒効果を発揮
一般的な光触媒は、光が当たらないと触媒効果を発揮しません。酸化チタンであれば、紫外線が当たらないと反応しません。銅ドープ酸化チタンも同様に、紫外線からシアンまでの波長の光が当たることによって活性化します。
ところが銅ドープ酸化チタンは、添加されたナノサイズの酸化銅によって、暗所でも触媒効果を発揮するようなのです。
実際に、銅ドープ酸化チタンを使った光触媒コーティング剤を使って、暗所にて抗菌や化学物質の分解、消臭などの試験を行ったところ、光が当たったときよりも効果は弱くなりますが、充分に効果が実感できるほどの結果が得られました。
銅ドープ酸化チタンは、光が当たっているときはもちろんのこと、暗所でも効果があるわけですから、室内用コーティング塗装として最適だと言えます。
酸化チタンと銅ドープ酸化チタンの用途の違い
光触媒コーティング剤には、酸化チタンと銅ドープ酸化チタンを利用したものがあります。
酸化チタンを利用した光触媒コーティング剤は、紫外線にしか反応しませんから、紫外線が降り注ぐ場所で利用されます。紫外線が降り注ぐ場所とは、直射日光が当たる場所か、もしくはブラックライトや紫外線ランプが点灯した場所になります。
ブラックライトや紫外線ランプがある場所というのは特殊な環境ですから、酸化チタン光触媒コーティング剤は主に屋外用です。
それに対して銅ドープ酸化チタンを利用した光触媒コーティング剤は、紫色や青色、シアンといった光に反応するため、室内の蛍光灯やLED照明の元でも活性化します。そのため、銅ドープ酸化チタン光触媒コーティング剤は室内用です。
ただし、銅ドープ酸化チタンも紫外線でも反応するので、屋外用として利用してもかまいません。
屋外でも日陰になる場所では、直射日光が当たらないので酸化チタンでは効果が出ない場合があります。そういった場所では、銅ドープ酸化チタンを使った光触媒コーティング剤が利用すると良いでしょう。
紫外線が当たらない場所では、銅ドープ酸化チタンを使い、紫外線が当たる場所では酸化チタンを用います。「紫外線が当たる場所では、酸化チタンと銅ドープ酸化チタンのどちらが効果的か?」という問いに対しては、酸化チタンの方が効果的だと考えます。
以上、酸化チタンと銅ドープ酸化チタンが反応する光の波長や性質の違い、光触媒コーティング剤にしたときの用途の違いについて解説いたしました。
弊社が開発した光触媒コーティング剤は、次の名称にて業務用製品として販売しています。
- 酸化チタンを用いた光触媒コーティング剤 ⇒ 屋外用光触媒コーティング剤(BX01)
- 銅ドープ酸化チタンを用いた光触媒コーティング剤 ⇒ 屋内用光触媒コーティング剤(BX01-AB1)
これらの製品は、専用の塗装機械とスプレーガンを用いて施工を行います。屋外や室内の光触媒コーティング施工をお求めの方は、弊社もしくは弊社の業務用製品を扱っている施工代理店にご相談ください。施工代理店一覧はこちらのページです。
また、弊社の業務用製品を使いたいとお考えの塗装業者様は、光触媒コーティング施工代理店募集のご案内をご覧ください。
この記事の著者/責任者

株式会社イリス 代表取締役
島田 幸一 (Shimada Koichi)
私はもともと、地元農業のソリューション提供を事業としていたが、野菜や果物の劣化を促進させるエチレンガスの分解を研究したことで、光触媒の可能性を感じ起業いたしました。運よく可視光でも効果のある酸化チタン光触媒を世界で初めて開発して脚光を浴び、さまざまな業種のお客様から注文をいただける企業にまで成長できました。現在弊社は、可視光応答型光触媒を使ったコーティング剤を始め、外壁やガラス、石材、自動車の車内にクリア塗装ができる光触媒コーティング剤や、酸化チタンから下地を守るプライマーの開発。その後も、さまざまな材質に光触媒を定着するための研究を続け、多くの企業で採用されています。