光触媒とは、光エネルギーを受けて、抗菌や防カビ、消臭、アレルゲンや化学物質の分解といった効果が出る物質のことです。
光触媒成分に光エネルギーが当たると、OHラジカルという強力な活性酸素が発生し、それに触れたものを酸化分解する性質があるので、そういった性質を持ちます。
この記事では、繊維に光触媒加工をしたときの、さまざまな疑問に答える形式で、繊維の光触媒加工について解説いたします。
ここで解説したこと以外のご質問があれば、弊社までお気軽にご相談ください。また、繊維の光触媒加工のご依頼も承ります。
繊維に光触媒加工が可能なのか?
光触媒成分は、基本的に酸化金属です。酸化金属を繊維に加工することが可能なのか、疑問に思われる方は多いと思います。
繊維には、天然繊維と化学繊維があります。天然繊維を光触媒加工する場合は、表面に塗装することになります。そのときに、繊維の内部に浸透することもあります。化学繊維の場合には、表面への塗装と、繊維の材質そのものに光触媒成分を練り込むことが考えられます。
繊維の光触媒加工は、その両方が可能です。
繊維の表面を光触媒加工する方法
繊維の表面に光触媒加工する方法は、光触媒コーティング剤を噴霧する方法と、光触媒コーティング剤に繊維をどぶ漬けする方法があります。
光触媒コーティング剤の噴霧は、スプレー装置で液剤を噴霧して塗装加工する方法です。どぶ漬けとは、容器の中に光触媒コーティング剤を充填し、その中に繊維を入れて浸透させます。それを絞って干して乾かします。そのような光触媒加工方法です。
光触媒コーティング剤には、バインダーと言われる接着剤が入っています。その接着剤によって繊維の表面に光触媒成分が付着します。そのようにして、繊維の表面に光触媒加工が可能です。
繊維の製品を安価に抑えるためには、光触媒コーティング剤の使用量を減らすことが大事です。コストパフォーマンスを考えると、光触媒コーティング剤を噴霧する方法が妥当です。
化学繊維の素材に光触媒成分を練り込む方法
化学繊維を製造するときに、光触媒成分を素材に練り込む光触媒加工の方法があります。
この方法はあまりおすすめできません。
なぜなら、光触媒成分が有機物を分解する性質があり、化学繊維を劣化させ、繊維を切れやすくする恐れがあるからです。そうすると、化学繊維の耐久性や強度が弱くなります。
光触媒加工で繊維が劣化するのでは?
光触媒は有機物を酸化分解する性質があるので、光触媒加工によって繊維が劣化するか心配になります。答えは、「劣化する」です。
繊維の劣化は起こるが分解して消えることは無い
確かに、繊維の表面を光触媒コーティングしても、繊維の表面が光触媒の効果によって酸化分解される恐れがあります。しかし、劣化するのは表面だけですから、内部が劣化していくわけではありません。
また、表面が劣化したら、その劣化した表面といっしょに光触媒成分も落ちていくことが予想されます。そうすると、内部までは劣化していきません。
それに対して、素材に光触媒成分を練り込んだものであれば、表面が落ちていったとしても、出てきた表面にも光触媒成分が存在するので、連続的に酸化分解され続けます。
ですから、繊維の表面に光触媒をコーティングする方法は、繊維の内部に練り込むよりも、圧倒的に耐久性は高いと思われます。
また、繊維は光触媒成分と比べたら、サイズが圧倒的に大きなものです。例えば、繊維の太さがφ0.1mmだったとします。その表面に光触媒コーティングをしたら、そのコーティングの厚さは、0.000001mm程度になります。繊維の直径と比べて10万分の1の厚さです。
そのようなサイズの差があると、光触媒では分解ができませんから、光触媒によって繊維が分解されるかどうかは心配にならないほどです。
色の劣化は起こる
光触媒加工することによって、繊維そのものの劣化はほとんどありませんが、色の劣化が起こることは、充分に考えられます。繊維に色付けをしている成分は、ほとんどが有機物です。有機物は、光触媒の活性酸素によって分解されるので、色あせが発生します。
衣服の色は日光に当たるなどして色あせが発生します。紫外線によって色あせをするわけですが、その色あせが加速されることがあります。
また、白色の繊維の場合は、日焼けをしたように黄色くなっていく場合もあります。
このようなことから、帆布のような厚手の繊維で生成りの色であれば、光触媒コーティングによる劣化は気にならないと思います。
洗濯したら光触媒が落ちないか?
光触媒加工された繊維製品を洗濯したら、その光触媒は落ちる可能性はあります。
洗濯したら光触媒が落ちるのかどうかは、加工された光触媒が摩擦に強いかどうかといった問題になります。
光触媒コーティング剤に用いられているバインダーは、繊維に強固に付着するので、摩擦に強いです。天然繊維なら、表面が複雑な形状をしているので、さらに摩擦に強くなります。
バインダーが使用されていない光触媒液剤を使用したら、繊維に強固に付着することはありませんので、洗濯を1回したら落ちてしまいます。バインダーを用いた光触媒コーティング剤であれば、強固に付着するので、洗濯をしても落ちにくいです。
何回くらいの洗濯に耐えられるかは、繊維の種類によって異なりますので、明言は避けたいと思います。貴社の繊維製品に光触媒コーティングをしてお試しください。
カーテンに光触媒コーティング加工は可能か?
答えは、「可能」です。カーテン地は、合成繊維であることが多いと思います。その表面を光触媒コーティング加工ができます。また、カーテン地の劣化を防止する方法もあります。
カーテンの光触媒コーティングによる効果
カーテンに光触媒コーティング加工することによって得られる効果は、次のようなものになります。
- 部屋の空気の消臭や除菌
- カーテンの臭い付着の防止
- カーテンの防カビ
光触媒は臭いや雑菌といった有機物を分解する性質がありますが、カーテンは窓際にあるため、光が当たりやすいので、そういった効果が発揮されやすいです。効果の詳細は、「カーテンを光触媒コーティングするメリット」をご参照ください。
カーテンの劣化防止方法
ただし、カーテンは光が当たりやすいので、カーテンの繊維が光触媒の効果によって劣化しやすくもあります。
それを防止する方法は、カーテンに光触媒コーティング加工をする前に、カーテンを光触媒による劣化から守る下地材(プライマー)を塗装しておくことです。
あらかじめプライマーを塗装しておくことで、カーテン地が光触媒成分と直接接触することを防いでくれるので、光触媒による劣化を防いでくれます。
部屋の光でも除菌ができる光触媒成分はあるのか?
光触媒成分は、光が強いところでは効果が高いのですが、光が弱いところでは効果も弱くなります。また、紫外線には効果を発揮しても、蛍光灯やLED照明では効果のない光触媒成分もあります。
繊維を利用する場面は、室外だけでないので、部屋の光でも除菌ができる光触媒成分が求められます。
室内用は可視光応答型光触媒を用いること
室内の光でも光触媒の効果を発揮する成分は、可視光応答型光触媒といわれます。目に見える光で光触媒の性質を発揮する成分です。
光触媒成分として最も利用されているものは、酸化チタンです。酸化チタンは、高い光触媒の効果を発揮する成分ですが、紫外線にのみにしか反応しません。ですから、酸化チタン光触媒を繊維に加工したとしても、室内ではまったく効果がありません。
繊維に可視光応答型光触媒を加工することによって、室内でも光触媒の効果を発揮するようになります。
可視光応答型光触媒ではれば何でも良いのか?
可視光応答型光触媒にも種類があり、種類によって効果の差があります。市販されている製品に利用されているものは、次の3種類です。
- 銅ドープ酸化チタン
- 窒素ドープ酸化チタン
- 酸化タングステン
これらの中でもっとも効果の高い成分は、銅ドープ酸化チタンです。窒素ドープ酸化チタンや酸化タングステンと比べて、数倍の効果の差があります。
また、銅ドープ酸化チタンには、驚くべき効果があります。それは、暗所でも触媒の効果を発揮することです。部屋は、夜に照明を消灯しますが、一般的な光触媒成分では除菌や消臭ができなくなります。ところが、銅ドープ酸化チタンは、暗所でも触媒の効果を発揮するので、夜間でも除菌・消臭を続けてくれます。
光触媒の効果の高さを求める場合や、防カビ効果を求めるのであれば、銅ドープ酸化チタンを用いることが重要です。
白いTシャツに光触媒加工が可能か?
可能です。綿100%のアンダーシャツであれば、銅ドープ酸化チタンの光触媒コーティング加工によって、臭いの防止や除菌ができます。また、室内干しをしても、生乾き臭を防止することが出来ます。
銅ドープ酸化チタンを加工したら、クローゼットの中やスーツの中に着こんで暗くなったとしても、除菌消臭ができます。加齢臭の消臭にも最適です。
ただし、Tシャツが臭わなくなり、汚れも落ちやすくなるわけですから、Tシャツを購入してくれる頻度が落ちてしまうため、光触媒Tシャツが話題になって一時的に売れたとしても、その後の購入頻度が下がってしまって、会社の売上高を落としてしまう可能性もあります。
消臭加工されたTシャツの需要があることや、光触媒コーティング加工しても何度も洗濯をしていたら光触媒が落ちていき、いずれは臭いが出てしまうようになりますから、需要はあると思います。
ちなみに、銅ドープ酸化チタンをコーティングしたTシャツは、今のところ世界に存在しませんから、先行者利益を得ることができるかもしれません。
空調機フィルターの繊維に光触媒加工は可能か?
可能です。空調機フィルターは、強力な除菌や防カビ、消臭の効果が求められるので、どぶ漬けによる光触媒加工をおすすめします。
どぶ漬けをすると、光触媒コーティング加工よりも、光触媒の塗布量が多くなるので、光触媒の効果が出やすいからです。
ただし、空調機内部に設置する場合には、少し工夫が必要です。なぜなら、光触媒は光が当たることによって効果を発揮するからです。
空調機フィルターの箇所に紫外線ランプを設置したり、暗所でも触媒効果を発揮する銅ドープ酸化チタンによる光触媒加工をしたりと、光触媒が効果を発揮するように工夫しないといけません。
以上、繊維の光触媒加工についてQ&A形式で解説いたしました。他にも繊維の光触媒加工についてご質問があれば、弊社までお気軽にご相談ください。
また、繊維の光触媒加工をお考えの方は、弊社にて加工方法の開発や試験などを代行いたします。お気軽にご相談ください。
この記事の著者/責任者
株式会社イリス 代表取締役
島田 幸一 (Shimada Koichi)
私はもともと、地元農業のソリューション提供を事業としていたが、野菜や果物の劣化を促進させるエチレンガスの分解を研究したことで、光触媒の可能性を感じ起業いたしました。運よく可視光でも効果のある酸化チタン光触媒を世界で初めて開発して脚光を浴び、さまざまな業種のお客様から注文をいただける企業にまで成長できました。現在弊社は、可視光応答型光触媒を使ったコーティング剤を始め、外壁やガラス、石材、自動車の車内にクリア塗装ができる光触媒コーティング剤や、酸化チタンから下地を守るプライマーの開発。その後も、さまざまな材質に光触媒を定着するための研究を続け、多くの企業で採用されています。