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光触媒効果の高い可視光応答型酸化チタンの開発

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光触媒効果の高い可視光応答型酸化チタンの開発

酸化チタン光触媒は、強い光触媒の効果によって、抗菌や抗ウイルス、消臭、アレルゲンや化学物質の分解など、いろいろな効果が期待されます。

酸化チタン光触媒が室内でもそれらの効果を発揮してくれたら良いのですが、紫外線にしか反応しないという弱点もあります。紫外線は直射日光に多く含まれ、室内ではほとんど存在しませんので、酸化チタン光触媒は室内では効果がありません。

もし、酸化チタン光触媒を室内の光で応答させることができ、なおかつ安定させることができたら、とても価値の高いものとなります。

酸化チタンを可視光応答させる方法は、いくつか知られています。そして、すでに製品化されている成分もあります。その多くの光触媒成分は、室内の光では光触媒の応答性が弱いものが多く、除菌や消臭の効果が弱いものが多いのです。

上の写真は、酸化チタン光触媒の可視光応答性を試験している様子です。それぞれの波長の光を当てて、色素が分解されるかを試験し、どの波長の光で光触媒の効果がどれくらいあるのかを調べています。

この記事では、光触媒の性質や酸化チタン光触媒を可視光応答させる方法、室内の光でも高い光触媒の応答性を示す銅ドープ酸化チタンを発見したエピソードを解説します。

少し専門的な内容にも踏み込みますが、酸化チタン光触媒の可視光応答を調べている方のお役に立てたらと思います。

光触媒の反応

酸化チタンは、光が当たるとマイナスの電荷を持つ電子が飛び出し、励起電子が発生します。電子が抜けたところは、プラスの電荷をもつ正孔が残ります。

励起電子は活性が高いので、空気中の酸素分子と結びついて、O2マイナスになります。O2マイナスは空気中の水と反応して、酸化水素(H2O2)になり、OHラジカル(ヒドロキシルラジカル)に変化します。

また、酸化チタンに残った正孔も、空気中の水と反応してOHラジカルを発生させます。

このようにして発生したOHラジカルが、菌やウイルス、アレルゲン、臭い成分、化学物質などの有機物を酸化分解します。

分解されて残る成分は、最終的には二酸化炭素と水などになります。

光触媒の効果を得るためには、光エネルギーを吸収し、励起電子が飛び出すことがポイントです。そして、そこに酸素や水が存在していることが大事です。

もし酸素や水が存在していなかったら、単に励起電子が飛び出すだけです。なお、この励起電子を太陽光発電に活用する研究もあるようです。

光触媒の効果の高さ

光触媒の効果の高さは、励起電子がたくさん飛び出すことに起因します。励起電子がたくさん飛び出すと、それだけOHラジカルがたくさん発生するので、光触媒の効果が高くなります。

励起電子がたくさん飛び出すための要素

励起電子がたくさん飛び出すためには、次の要素によって決まります。

  • エネルギーの強い光が当たること
  • 当たる光の量が多いこと

光触媒に、どのような光が当たっても励起電子が飛び出すわけではありません。エネルギーの強い光が当たらないと励起電子が飛び出さないのです。

ですので、弱いエネルギーの光が大量に当たったとしても、光触媒の効果はまったく出ません。

効果の高さは、エネルギーの強い光が大量に当たることです。

どの程度の強いエネルギーの光が当たれば光触媒の効果を発揮するのかは、成分によって異なります。

成分の違いはバンドギャップの違い

その成分の違いは、結晶が持っているバンドギャップと言われる物理的性質に起因します。バンドギャップが大きい成分は、エネルギーの強い光が当たらないと、励起電子が発生しません。反対にバンドギャップが小さい成分ですと、エネルギーの弱い光でも励起電子が発生します。

光エネルギーは、光の波長によってエネルギーの強さが決まります。そして、エネルギーの強さは、波長の長さに反比例します。波長が短い光はエネルギーが強く、波長の長い光はエネルギーが弱いのです。

ですので、光触媒成分から励起電子を放出させるためには、その成分特有のバンドギャップ幅を超えるほどの強いエネルギーを持つ、波長の短い光を当てると良いということです。

例えば、アナターゼ型酸化チタンはバンドギャップが3.2eVほどですから、それよりも強いエネルギーを持つ光を吸収したら、光触媒の性質を発揮します。

光エネルギーの強さと色

光エネルギーの高さは、光を見たときの色として違いが出ます。人が見ることができる光のことを、可視光といいます。可視光は虹色と同じで、紫色、青色、シアン、緑色、黄色、だいだい色、赤色と並んでいます。

紫色の光は波長が短い色で、400nmほどの波長です。赤色の光は波長の長い色で、750nmほどの波長です。紫色と赤色のエネルギーを比較すると、紫色の方が波長が短いので、エネルギーが強い光となります。また、波長の長さは約半分ですから、エネルギーの強さは2倍ほどになります。

紫色の光の波長よりも、もっと波長が短い、エネルギーの強い光があります。そのような光は、人の目に見ることが出来ないため、「紫色の外」ということで、「紫外線」といいます。その反対に、赤色よりも波長の長い光も、人が見ることができません。そのような光のことを、「赤外線」といいます。

紫色の光の波長は、バンドギャップが3.2eVほどに相当するので、バンドギャップが3.2eV以下の光触媒成分であれば、紫色の光やそれよりも波長の短い紫外線が当たると励起電子が発生することになります。

紫外光応答型光触媒と可視光応答型光触媒

紫外光応答型光触媒とは、紫外線に応答して光触媒の効果を発揮する成分のことです。可視光応答型光触媒とは、可視光に応答して光触媒の効果を発揮する成分のことです。

この差は、光の波長380nmを境に、それよりも短い波長の紫外線によって応答するものを、紫外光応答型光触媒と定義されています。光の波長が380nmよりも短い光が紫外線で、それよりも波長の長い光が可視光になります。

酸化チタン光触媒は、厳密には波長が400nmの紫色の光でも若干光触媒の応答性を示しますが、紫外光応答型光触媒に分類します。

また、可視光応答型光触媒はもちろん可視光には応答するのですが、可視光だけでなく紫外線にも応答します。要するに、光触媒成分のバンドギャップを超えるエネルギーの光が吸収出来たら、どのような波長の光でも良いわけです。ですので、可視光応答型光触媒でも、紫外線を照射した方が光触媒の効果が高くなる場合もあります。

紫外光応答型光触媒と可視光応答型光触媒の違いについては、「酸化チタン光触媒と可視光応答型光触媒の性質の違い」もご参照ください。

酸化チタン光触媒を可視光応答させる方法

前置きが長くなりましたが、酸化チタン光触媒を可視光応答させる方法を解説します。

酸化チタンの結晶構造

酸化チタンにはいくつかの結晶構造があります。アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型が知られています。

安定している結晶構造で、励起電子がたくさん出る酸化チタンの結晶構造は、アナターゼ型です。ルチル型も光触媒の性質を持っていますが、アナターゼ型の方が光触媒の効果が高いようです。

アナターゼ型酸化チタンのバンドギャップは3.2eVですので、紫色やそれよりも波長の短い紫外線を吸収することで励起電子が発生し、光触媒の性質を持ちます。

ちなみに、ルチル型のバンドギャップは3.0eVです。このバンドギャップに相当する光の色は、青紫色です。

酸化チタンを可視光応答させる方法

酸化チタン光触媒を可視光応答させるためには、酸化チタンのバンドギャップを何等かの方法で下げてあげるようにすれば良いのです。そして、一般的に知られている方法は、「酸化チタンに別の物質を担持させること」です。担持とは、酸化チタンに別の物質を固定化させることです。

「何を担持させるのか?」ということですが、世の中には物質が無限といえるほど存在していることや、担持させる方法も物質によって異なる場合があるので、発見には膨大な労力がかかり、なかなか難しいようです。

近年、担持できる方法が発見され、可視光応答させられ、なおかつ光触媒製品になったものは、主に次の物質があります。

  • 窒素

前者を窒素担持酸化チタンもしくは窒素ドープ酸化チタン、後者を銅担持酸化チタンもしくは銅ドープ酸化チタンといいます。

酸化チタンは他の成分を担持させても可視光応答するようですが、効果の高さからすると、この2つが実用化されています。

銅ドープ酸化チタンは、弊社が世界で初めて発見し、製造方法で特許を取得したものです。今のところ、光触媒製品の中では世界最高峰の光触媒効果があるとされています。

銅ドープ酸化チタンは、波長の長さが約480nmよりも短い光、シアンや青色、紫色といった可視光に反応することが知られています。

銅ドープ酸化チタンの発見エピソード

弊社が銅ドープ酸化チタンを発見した経緯を解説いたします。それは、たまたまの発見でした。

酸化チタン光触媒との出会いはエチレンガスの分解

弊社が酸化チタン光触媒と出会ったのは、20年以上前のことになります。

弊社は当時、植物活性剤を製造しており、九州一円の農家さんに販売していました。そのときに、私があるJAを訪問したとき、技術指導員から「収穫して倉庫に入れた野菜や果物の劣化を防ぐ事は出来ないのか?」と相談されたことがきっかけで、酸化チタン光触媒と出会いました。

野菜は、自ら発生するエチレンガスによって野菜自らを熟成、劣化させます。そのため、野菜市場に並ぶ頃には傷みかけている野菜もありました。

当時、光触媒が注目を集めていた時期でもあり、光触媒でエチレンガスを分解出来るのではないかと考えました。

又、当時は、佐賀県の光触媒が全国的に有名にもなった時期でもありました。

ゾルゲル法という方法で、アモルファス酸化チタンとアナターゼ型酸化チタンを組み合わせて光触媒コーティング剤にすることを佐賀県窯業技術センターの一ノ瀬先生が発見され、特許を取得されていました。

それで、弊社は、各光触媒メーカーから光触媒を取り寄せ、光触媒でエチレンガスを分解して、野菜の鮮度を保つ研究をし、光触媒を使ったエチレンガス分解装置の特許を出願しました。

酸化チタンの可視光応答化の研究開始

その頃に、「室内でも効果のある酸化チタン光触媒コーティング剤を開発できないか?」と考えました。酸化チタンという強い光触媒成分が室内で利用できたら、室内の除菌や消臭などができて、光触媒をより活かすことができます。そこで、知り合いのメーカーにその話を持ち掛けたところ、「酸化チタンを可視光応答させられるわけがない。そのようなことは出来るわけがない」と一蹴されてしまいました。

そこで、「ならば、自社で開発してみよう」と取り組むことにしました。

酸化チタン光触媒を研究する施設どころか製造に関する知識すらありませんから、酸化チタンの性質の勉強から始め、佐賀県窯業技術センターのラボをお借りしました。「酸化チタンに何かを混ぜたら可視光応答させられる」ということを知っていたので、既知の窒素ドープ酸化チタンの製造から試し、銀、白金、亜鉛、ニッケル等、いろいろなものを混ぜて試験をする日々が続きました。

何かあればすぐに一ノ瀬先生に尋ねることができるという、恵まれた環境を頂けたことも幸運し、研究を続けていきました。

しかし、それらの成分を混ぜることで可視光応答させることはできたのですが、室内の弱い光でも高い抗菌力を得られるものができませんでした。

銅を混ぜたら高い可視光応答性を示した

これといった研究成果もなく、2年ほど経過していきました。開発を半ばあきらめかけていたときに、ふと「銅を添加してみよう」と思い至りました。

銅は、銀と比べて抗菌力がかなり劣るものの、抗菌剤として利用されていることや、それ自体に触媒の効果があります。ある手法で混ぜてみたら、意外にもすんなりと酸化チタンと一体化し、試験したところ、200Lxほどの弱い光でも光触媒の高い可視光応答性を示したのです。

銅と銀の単体の抗菌効果を比較すると、銀の方が抗菌力が圧倒的に高いのですが、酸化チタンに銅を担持させたものは、銀単体よりも圧倒的に高い抗菌効果を示すことが判りました。また、銀や亜鉛、ニッケルなどの金属を担持させた酸化チタンよりも、圧倒的に効果が高いことも確認しました。

すぐさま、この新成分の製造方法で特許を申請し、発表したところ、さまざまな反響がありました。その後に、東京大学をはじめとする多くの研究機関で研究され、銅ドープ酸化チタンのメカニズムや効果の高さが明らかとなっていきました。

弊社としては、銅を添加して可視光応答させられただけでなく、安定した光触媒コーティング剤を製造できることも幸運でした。

以上、光触媒の性質を少し難しく解説しつつ、酸化チタン光触媒を可視光応答させる方法について述べました。

現在、銅ドープ酸化チタンを使った光触媒コーティングや光触媒消臭剤は、次のものを定番として製造販売しています。

光触媒コーティング施工のご依頼や製品のご相談などは、弊社までお気軽にご連絡ください。施工については、弊社製品を扱う施工代理店に直接ご連絡していただいてもかまいません。ご連絡をお待ちしております。

この記事の著者/責任者

島田幸一

株式会社イリス 代表取締役
島田 幸一 (Shimada Koichi)

私はもともと、地元農業のソリューション提供を事業としていたが、野菜や果物の劣化を促進させるエチレンガスの分解を研究したことで、光触媒の可能性を感じ起業いたしました。運よく可視光でも効果のある酸化チタン光触媒を世界で初めて開発して脚光を浴び、さまざまな業種のお客様から注文をいただける企業にまで成長できました。現在弊社は、可視光応答型光触媒を使ったコーティング剤を始め、外壁やガラス、石材、自動車の車内にクリア塗装ができる光触媒コーティング剤や、酸化チタンから下地を守るプライマーの開発。その後も、さまざまな材質に光触媒を定着するための研究を続け、多くの企業で採用されています。

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