
光触媒を外壁に利用すると、うまくいけば外壁の汚れが防止できます。
少し汚れてきたとしても、水をかけるだけで汚れを落とせるようにもなります。
ところが、これは「うまくいけば」です。光触媒での防汚には条件があります。
この記事では、外壁に光触媒を利用したときに、うまくいく条件、うまくいかない条件を、分かりやすく徹底解説いたします。
うまくいかない場合には、塗装後2~3年ほどで外壁が色あせしたり、ひび割れが発生したりすることがあります。
少し長い文章になりますが、ご自宅の外壁に光触媒塗装を検討されている方、外壁施工業者様で光触媒の導入をご検討の方は、光触媒の導入で失敗しないためにも、最後までお付き合いください。
外壁の汚れの種類
外壁の汚れには次のような種類があります。
- 油脂の汚れ
- 砂埃の汚れ(茶色い汚れ)
- PM2.5の汚れ(黒い汚れ)
- コケ(苔)の汚れ(緑の汚れ)
- カビの汚れ(緑や黒い汚れ)
これらすべての外壁の汚れは、光触媒で防汚ができる可能性があります。
油脂の汚れ
外壁に砂埃やPM2.5が付着しても、風が吹いたり、雨水が当たったりしたら落ちていきます。ところが、外壁に油脂の汚れが付着したら、その粘性によって砂埃やPM2.5の汚れが付着してしまいます。
都心では、自動車が走り、近くに飲食店がある場合もあります。そこからの排気には、油脂が含まれています。その油脂が目に見えない微粒子として飛び回っており、外壁に付着します。そして、その油脂が少しずつ溜まってくると、小さな砂埃やPM2.5といった汚れが付着し始めて、外壁の汚れが少しずつ目立ってくるわけです。
外壁の防汚は、油脂の汚れをどのように防ぐかが1つ目のポイントになります。
コケやカビの汚れ
外壁の防汚の2つ目のポイントは、コケやカビの汚れです。
これらの汚れは、ジメジメしている所や山間などの樹木の多い所で発生しやすいです。コケやカビの発生に共通していることは、
- 直射日光が当たりにくい外壁であること
- 湿気の多い場所であること
- どちらも生物汚れであること
外壁塗装でもっとも利用される光触媒「酸化チタン」
外壁塗装で利用される光触媒の種類は酸化チタンです。
光触媒による防汚効果
光触媒とは、光が当たることで触媒効果を持つ物質のことです。触媒効果とは、主に酸化分解する性質です。外壁に光触媒を利用すると、外壁に付着する油脂やPM2.5、コケやカビといった有機物を分解してくれます。
光触媒によって分解ができるメカニズムは、次の図をご覧ください。

光触媒に光が当たると、光触媒から電子が飛び出します。この電子が空気中の酸素や水と反応して、OHラジカルと言われる活性酸素が発生します。OHラジカルはとても強い酸化力を持った活性酸素ですから、それに触れるものを酸化分解してくれます。
また、光触媒の表面にOH基が発生し、親水性の効果が生まれます。親水性とは、水と馴染む性質のことで、汚れと光触媒の間に水分が入り込み、汚れを浮かせて、自動的に落としてくれるようになります。この効果のことをセルフクリーニングといいます。

酸化チタンの性質
光触媒にはいろいろな種類がありますが、外壁にもっとも利用される光触媒は酸化チタンです。酸化チタンは、光の中でも紫外線が当たることでOHラジカルが発生します。
直射日光には紫外線が多く含まれているため、外壁に酸化チタンを塗装しておけば、高い防汚効果が得られるわけです。

酸化チタンの利用方法
酸化チタンを外壁に利用する方法は次の2種類です。
- 顔料の入った光触媒塗料を用いる方法
- クリア塗装ができる光触媒コーティング剤を用いる方法
顔料の入った光触媒塗料とは、酸化チタンが添加されたペンキのような塗料のことで、刷毛やペイントローラーで塗装します。
クリア塗装ができる光触媒コーティング剤とは、酸化チタンが添加された水のような液剤のことで、スプレーガンで塗装します。
「どちらを利用したらいいのか?」ということですが、後ほど詳しくご説明いたしますが、劣化しにくい光触媒塗料を用いるのであれば、光触媒塗料を使う方が施工費用を安く抑えることができます。10年~20年といった長期間の防汚を行いたいのであれば、光触媒コーティング剤のご利用をおすすめします。
光触媒による劣化
光触媒を用いると、塗布した塗料そのものや塗装面が劣化する場合があります。
光触媒塗料の劣化
光触媒塗料とは、ペンキのような塗料に酸化チタンが添加されたものです。酸化チタンは、紫外線が当たると強い酸化力を持つ物質ですが、この酸化力は汚れだけでなく、塗料そのものをも酸化させてしまいます。
今から15年ほど前に、「光触媒で外壁の美しさが10年以上保つことができる」というふれ込みで、大手塗料メーカーが大々的にPRを展開したことがありました。ところが、販売を開始してから2~3年ほど経過したら、「外壁が色あせを起こして、白くなってきた」とクレームが入るようになりました。
その大手塗料メーカーが調べたところ、確かに油脂やPM2.5などの汚れはなかったようですが、光触媒塗料に含まれていた顔料が酸化分解されて、色あせやチョーキングが発生したようです。
チョーキングとは、外壁が白っぽく色あせして、チョークの粉が吹き出したようになる現象のことです。古い看板は白く色あせをしますが、そのようになる現象のことです。
結局、大手塗料メーカーは、光触媒塗料から撤退していきました。
また、「色あせしてもそのまま使い続けた人はどうなったのか?」ということですが、塗料がひび割れしました。なぜなら、光触媒塗料に用いられている樹脂も有機物なので、光触媒による分解の対象となっていたからです。光触媒により樹脂の劣化が加速され、塗料の寿命よりも早くひび割れが発生してしまいました。
光触媒コーティング剤による外壁の劣化
続いて、光触媒コーティング剤による外壁の劣化も発生しました。これは今から25年ほど前の話になります。
当時、佐賀県を中心に光触媒コーティング剤の開発が盛んに行われ、外壁への利用が流行したときがありました。
当時、弊社では「外壁が劣化する可能性があるので、信頼性の高い劣化防止剤ができるまで大々的に販売すべきではない」と訴えていましたが、その声はかき消されてしまいました。
その結果、2~3年後に「外壁が色あせをした」とクレームが入るようになり、大々的にPRしていた光触媒コーティング剤のメーカーは、大打撃を受けることになったのです。
劣化対策
光触媒塗料を製造していたメーカーは、劣化しにくい顔料は数が限られるため、「酸化チタンの量を少なくする」ということで、劣化対策をしました。すると、もちろん防汚効果も落ちてしまいますから、「汚れが発生した」というクレーム対応で、ついに撤退することになりました。
一部では、無機顔料を使った光触媒塗料は残っています。
光触媒コーティング剤による外壁の劣化防止ですが、劣化防止剤(プライマー)を用います。プライマーを塗装し、その上から光触媒コーティング剤を塗装すると、外壁と光触媒が直接触れることがありませんから、光触媒による外壁の劣化を防ぐことができます。

ところが、その後に分かったことですが、プライマーが劣化してしまい外壁を劣化させてしまったのです。
プライマーの劣化については、弊社が各社に指摘していたことですが、この声も勢いにかき消されてしまいました。
その後、劣化しないプライマーを開発できなかった光触媒コーティング剤のメーカーは、酸化チタンの添加量を少なくして対応しましたが、これも効果が弱くなり、「汚れが発生した」とクレームが入るようになって、撤退していきました。
酸化チタンによる防苔や防カビ
外壁の汚れは、砂埃やPM2.5だけでなく、コケやカビによる汚れもあります。
大手工務店からのご相談
先日、大手工務店様から「光触媒塗料を使ったが、コケが発生してクレームになった。イリスの製品なら防苔が可能か?」ご相談がありました。もちろん、弊社製品であれば防苔が可能です。
さて、光触媒塗料を使ったのに、なぜコケが発生してしまったのでしょうか?
その理由は、コケが発生した場所にあります。先ほどコケやカビが発生する場所は、「直射日光が当たりにくい外壁であること」とお伝えしました。また、酸化チタンは「紫外線が当たることで防汚効果が発揮される」ということもお伝えしました。
つまり、コケやカビが発生する場所は、紫外線が当たらない場所だったのです。
そのために、光触媒塗料に添加された酸化チタンが効果を発揮できなくて、コケの発生を許してしまったのです。

コケ防止は少なくとも可視光応答型光触媒を使用すること
酸化チタンは紫外線が当たらない場所では、ほとんど効果がありませんから、コケやカビが発生するような場所では、酸化チタンは不向きです。そこで、可視光でも効果のある酸化チタン以外の光触媒を使うことが求められます。
可視光とは、目に見える光のことです。人が明るさを感じることができる光のことを、可視光といいます。コケが発生する場所は、紫外線はほとんど当たりませんが、少なくとも可視光なら降り注いでいるはずです。なぜなら、コケは光合成するので光が無いと生きていけないからです。
そういったことで、可視光でもコケやカビを分解できる光触媒を選びます。可視光でも効果のある光触媒のことを、可視光応答型光触媒といいます。
そして、可視光応答型光触媒が利用されている光触媒塗料は、今現在のところ存在しませんから、光触媒コーティング剤を用います。
可視光応答型光触媒の種類
光触媒コーティング剤として実用化されている可視光応答型光触媒は、次の種類があります。
- 銅ドープ酸化チタン
- 窒素ドープ酸化チタン
- 鉄ドープ酸化チタン
- 酸化タングステン
これらはすべて可視光応答型光触媒ですが、効果の高さは異なります。これらの中でもっとも防苔や防カビといった効果の高い光触媒は、銅ドープ酸化チタンです。銅ドープ酸化チタンは、他の可視光応答型光触媒よりも10倍以上の効果の高さがあります。

外壁に光触媒を用いるときの選択肢
外壁に光触媒を用いるときの選択肢は次のようになります。
1.光触媒コーティング剤を選ぶ
まず、「光触媒塗料と光触媒コーティング剤のどちらを選ぶのか?」ということですが、光触媒塗料は色あせやひび割れが発生する可能性があることや、劣化しにくい顔料の種類に限りがあるので、光触媒コーティング剤ということになります。
光触媒コーティング剤であれば、下地の色に関係なくクリア塗装ができます。
2.劣化しない外壁用プライマーを開発したメーカー製品を選ぶ
光触媒コーティング剤であったとしても、外壁用プライマーを開発できなかったメーカーの製品は、光触媒の効果が弱いと言えるので、ご利用になるべきではありません。
外壁用プライマーを販売しているメーカーの光触媒コーティング剤を採用すべきです。
3.南側と北側の外壁で光触媒コーティング剤を使い分ける
南側の外壁は酸化チタンを、北側や直射日光が当たりにくい外壁には銅ドープ酸化チタンを使った光触媒コーティング剤を利用します。
銅ドープ酸化チタンの製造方法はとても難しいらしいので、銅ドープ酸化チタンの開発に成功したメーカーの製品を選びます。
これらの条件を満たす光触媒コーティング剤メーカーは?
光触媒コーティング剤メーカーで、劣化しにくい外壁用プライマーを開発し、なおかつ銅ドープ酸化チタンをつかった光触媒コーティング剤を製造・販売しているメーカーは、今現在のところ弊社、もしくは弊社製品をOEM/ODMで提供しているメーカーの製品のみとなります。
外壁の光触媒コーティング施工
外壁に光触媒コーティング塗装をする方法について解説いたします。
光触媒コーティング剤
外壁に利用する光触媒コーティング剤は、次の2種類になります。
屋外用光触媒コーティング剤(BX01)は酸化チタンを使った液剤で、直射日光が当たる外壁に利用します。屋内用光触媒コーティング剤(BX01-AB1)は銅ドープ酸化チタンを使った液剤で、日陰になる部分に利用します。名称が「屋内用」となっていますが、外壁にも利用可能です。

これらの光触媒コーティング剤は、次のような材質の外壁に塗装ができます。
- ペンキ塗装の外壁(看板を含む)
- 樹脂製のサイディング
- 漆喰や珪藻土の外壁
- 石膏ボード
- タイル
- レンガ
- 打ちっ放しコンクリート外壁
劣化防止剤(プライマー)

外壁用の劣化防止剤は、屋外用プライマー(ASS01)を利用します。この製品は、直射日光が当たっても劣化しにくいので、光触媒から外壁の劣化を守ってくれます。
外壁が漆喰やレンガ、石膏ボード、石材、タイルなどの無機物の場合は、光触媒によって劣化しませんからプライマーの塗装は必要ございません。
また、外壁が打ちっぱなしコンクリートの場合には、コンクリート用プライマー(セラミックプライマー)を利用します。コンクリート用プライマーは、防水効果のあるプライマーです。光触媒の親水性によって引き寄せられた水分が、コンクリートの中にしみ込んで行って、コンクリートが劣化することを防いでくれます。
塗装機材

光触媒コーティング剤やプライマーは、専用の塗装機械とスプレーガンを用いて塗装します。
弊社が推奨する塗装機械とスプレーガンのセットは、ABAC(アバック)温風低圧塗装機です。
ABAC温風低圧塗装機のスプレーガンからは、噴霧する液剤を包み込むようにエアカーテンが噴き出しています。光触媒コーティング塗装では少しでも風が吹いていたら、塗装が難しくなりますが、このエアカーテンによって、液剤が飛び散ることを防いでくれます。

外壁塗装の流れ
光触媒コーティングの外壁塗装の流れは次の手順で行います。
- 近隣への事前説明
- 足場の設置
- 養生
- 外壁の清掃
- 屋外用プライマー(ASS01)の下地塗装(必要箇所のみ)
- 光触媒コーティング剤の塗装
- 足場や養生の撤去
養生とは、光触媒コーティング塗装をしない箇所に光触媒コーティング剤がかからないようにシートや養生テープで保護する作業のことです。近隣の自動車や植木、窓ガラス、照明、コンセント、防犯カメラといったものです。
屋外用プライマー(ASS01)の塗装は、有機物の材質の外壁に下地塗装します。石材やタイル及びガラス等の無機成分の外壁は、光触媒によって劣化しないので屋外用プライマー(ASS01)を下地塗装しなくてもかまいません。
コケやカビの発生を抑制したい箇所の液剤には、銅ドープ酸化チタンを使った光触媒コーティング剤を選択します。弊社製品は、屋内用光触媒コーティング剤(BX01-AB1)です。
プライマーや光触媒コーティング剤を塗装したら、乾燥するまで待ちます。乾燥時間は、夏場であれば30分ほど、冬場であれば2時間ほどです。光触媒コーティング剤は塗装したらすぐに乾燥しますが、接着成分(バインダー)が固化するまでの時間を待ちます。湿気の多い日は、液剤が乾きにくいので、もっと時間がかかります。
光触媒コーティング塗装ができない環境
屋外の環境によって光触媒コーティング塗装ができない環境があります。塗装箇所の環境が次のような場合には、光触媒コーティング塗装ができないのでご注意ください。
- 雨の日
- 外壁が濡れている場合
- 風が強い日
- 気温が氷点下の日
以上、光触媒の外壁塗装について徹底解説いたしました。難しい用語がたくさん出てきましたが、覚えておいていただきたいことは、「外壁に適した光触媒製品を利用しないと、外壁の見栄えの美しさを保つはずの光触媒が、外壁を醜いものにしてしまう」ということです。
弊社の光触媒製品にて外壁塗装を行いたい方は、弊社もしくは弊社の製品を扱う施工代理店までご相談ください。施工代理店は「光触媒コーティング塗装の施工代理店一覧」をご覧ください。

この記事の著者/責任者

株式会社イリス 代表取締役
島田 幸一 (Shimada Koichi)
私はもともと、地元農業のソリューション提供を事業としていたが、野菜や果物の劣化を促進させるエチレンガスの分解を研究したことで、光触媒の可能性を感じ起業いたしました。運よく可視光でも効果のある酸化チタン光触媒を世界で初めて開発して脚光を浴び、さまざまな業種のお客様から注文をいただける企業にまで成長できました。現在弊社は、可視光応答型光触媒を使ったコーティング剤を始め、外壁やガラス、石材、自動車の車内にクリア塗装ができる光触媒コーティング剤や、酸化チタンから下地を守るプライマーの開発。その後も、さまざまな材質に光触媒を定着するための研究を続け、多くの企業で採用されています。