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光触媒で野菜の熟成や腐敗を抑える方法【ポイントはエチレンの分解】

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光触媒で野菜の熟成や腐敗を抑える方法

野菜の熟成は収穫してから熟成が早く進むようになります。そして、熟成が進むと少しずつ腐敗していきます。

野菜の熟成や腐敗を抑えることができたら、野菜が長持ちするので、長く販売できるようになります。また、長距離輸送ができるようになります。

この記事では、光触媒によって野菜の熟成や腐敗が進む速度を抑える方法を解説いたします。

野菜熟成が進みが長持ちしない理由は
エチレンガスの発生

野菜は、収穫をすると、収穫前よりも熟成が早く進み、長持ちしなくなります。その理由は、野菜からエチレンガスが多く出るからです。

野菜から出るエチレンガスによって、自らの熟成が進むようになります。生花も同様です。

エチレンガスが出やすい野菜や果物があり、それらといっしょに冷蔵庫に入れておくと、熟成が進みやすくなります。エチレンガスの出やすさは、農研機構「野菜の最適貯蔵条件」が参考になります。

さて、野菜からエチレンガスが出ないようにするか、エチレンガスを除去することができたら、野菜の熟成を抑制することができます。そして、熟成を抑制できたら、腐敗を抑制することができます。

エチレンガスがなるべく出ないようにする方法としては、野菜を冷蔵したり、二酸化炭素を充満させたりします。

野菜は冷蔵庫で保存することが基本となるので、冷蔵庫内のエチレンガスを除去する必要があります。その方法として、冷蔵庫の中を換気したり、エチレンガスを分解したりする方法があります。

光触媒によるエチレンガスの分解

エチレンガスは、光触媒によって分解することができます。光触媒がエチレンガスを分解するメカニズムは、次の通りです。

  1. 光触媒に光が当たる
  2. 光触媒の表面にOHラジカルが発生する
  3. OHラジカルによってエチレンガスが酸化分解される

OHラジカルとは、活性酸素の一種で、強力な酸化力を持った成分です。OHラジカルがエチレンガスに触れると、エチレンガスが酸化分解されます。

単純に考えるならば、冷蔵庫の中に光触媒を入れて、光を当てることで、エチレンガスが分解され、冷蔵庫の中の野菜の熟成が抑制されるわけです。

光触媒がエチレンガスを分解できる条件

光触媒には、光が当たることでエチレンガスが分解できるわけですが、もう少し詳しく解説すると、光触媒の種類によって、OHラジカルが発生する光の種類が異なりますし、発生するOHラジカルの量も異なります。

光触媒を使ったエチレンガス分解の速度は、次の条件によって決まります。

  1. 光触媒に当たる光の明るさ
  2. 光触媒が反応する光が当たっていること
  3. 光触媒の量
  4. 光触媒にエチレンガスが触れること

1.光触媒に当たる光の明るさ

光触媒は、基本的に当たる光が明るければ明るいほどOHラジカルをたくさん発生させます。明るい光を当てることができたら、それだけエチレンガスを分解します。

家庭用冷蔵庫の扉を開けるとランプが点灯しますが、そのランプの明るさの光よりも、手術室のような明るさの光を照射した方が、圧倒的にエチレンガスが分解できます。

2.光触媒が反応する光が当たっていること

光には青色や赤色といった色があります。また、目に見えない光として、紫外線と赤外線があります。それらの光の違いは、波長の違いです。

光触媒によって反応する光の波長が異なります。この解説は長くなるので、後ほど解説いたします。

3.光触媒の量

光触媒の量は、光触媒が少しだけ使われるよりも、たくさん使われた方がOHラジカルの発生量が増えるわけです。するとエチレンガスが分解される量が多くなります。

光触媒は、コーティング剤にして塗装しますが、コーティング剤に含まれる光触媒の濃度を高めることができたら、効果の弱い光触媒成分であったとしても、エチレンガスを効果的に分解できます。

ただし、光触媒の濃度が高すぎると白くなったりして意匠性に問題が出てくる場合が多々ありますので、濃度は高すぎないことも必要です。

4.光触媒にエチレンガスが触れること

光触媒でエチレンガスを分解するためには、光が当たって活性化し、OHラジカルを発生せますが、そこにエチレンガスが触れる必要があります。

OHラジカルはとても酸化力が強いので、発生したOHラジカルが浮遊していくことはほとんどありません。エチレンガスが光触媒のところまで来ないといけないのです。

光触媒に送風機などでエチレンガスが触れるように工夫をすることで、エチレンガスを多く分解できるようになります。

光触媒が活性化する光の種類とは?

光触媒は、成分によって活性化する光の種類が異なります。光の種類とは、簡単に言えば「光の色」のことです。

光は、紫色、青色、緑色、黄緑、黄色、橙、赤という具合に色があります。この違いは、光の波長の違いです。光の波長が400nmであれば紫色、700nmであれば赤色という具合です。nmは「ナノメートル」と呼びます。この範囲の波長の光は、目に見える光ですから、可視光といわれます。紫色よりも波長の短い光は紫外線、赤色よりも波長の長い光は赤外線といわれます。これらの光は目で見ることができません。

可視光線の波長

光触媒には、たくさんの種類があります。光触媒の中で代表的なものは、酸化チタンです。酸化チタンは、紫外線に反応して、たくさんのOHラジカルを発生させる成分です。ですから、酸化チタンを使ってエチレンガスを分解するためには、紫外線を当てることが必要です。

また、光触媒には紫外線以外の光でも活性化するものがあります。例えば、銅ドープ酸化チタンや酸化タングステンといった光触媒は、紫外線だけでなく青色の光にも活性化します。可視光でも活性化する光触媒のことを、可視光応答型光触媒といいます。

ここで、「どの光触媒にどの光を当てると、もっともOHラジカルを発生させられるのか?」ということですが、次の組み合わせになります。

  • 紫外線を照射する場合・・・酸化チタン
  • 可視光の場合・・・銅ドープ酸化チタン

この2つを比べると、酸化チタンに紫外線を当てることが、もっともエチレンガスを分解します。ただし、銅ドープ酸化チタンは暗所でもエチレンガスを分解するという、特殊な性質を持った光触媒ですので、光を使わない場合には、銅ドープ酸化チタンがおすすめです。

光触媒を使ってエチレンガスを分解する方法

光触媒を使ってエチレンガスを分解する方法には、エチレンガス分解装置の利用と冷蔵庫内やカーゴに光触媒コーティング塗装をする方法があります。

エチレンガス分解装置

弊社が開発した光触媒空気清浄機

酸化チタンや可視光応答型光触媒を使ってエチレンガスを分解する装置について考えたいと思います。

エチレンガス分解装置は、空気清浄機のような装置で、フィルターに光触媒コーティングをしてあるものです。それを冷蔵庫内に設置することで、野菜の熟成や腐敗を抑制できます。

酸化チタンを用いる場合には、フィルターに紫外線が当たるように、紫外線ランプを設置します。銅ドープ酸化チタンを使う場合には、紫外線を当てたら強力ですが、市販されているLED照明でかまいません。

この図は、酸化チタンと紫外線ランプを組み合わせた試作機の一例です。

装置の送風機をONにすると、エチレンガスが充満した冷蔵庫内の空気が装置内を循環し、エチレンガスが分解されます。

エチレンガス分解装置試作機によるエチレンガス分解試験結果

このグラフは、実際にエチレンガス分解装置を試作し、花卉が保管されているプレハブ冷蔵庫1坪タイプにて試験した結果になります。

装置の電源をONにすると、エチレンガスが分解されていっていることが判ります。

ところが、ある一定ラインでエチレンガスの分解が止まっています。これは、野菜からエチレンガスが出る速度とエチレンガスを分解する速度が拮抗したためです。

グラフにはありませんが、装置の電源をOFFにすると、エチレンガスの濃度が高くなります。

既存の冷蔵庫にエチレンガス分解装置の設置する場合は、冷蔵庫内部にコンセントがある比較的大きな冷蔵庫に限られます。

冷蔵庫内の光触媒コーティング

冷蔵庫内に光触媒コーティングをして、直接エチレンガスを分解する場合は、冷蔵庫内は真っ暗ですから、銅ドープ酸化チタンを用います。

野菜を保管している冷蔵庫内に、銅ドープ酸化チタンを使った光触媒コーティングをすることで、冷蔵庫内が真っ暗でもエチレンガスを分解することができます。

冷蔵庫内に常に光を当てることができたら、より一層、エチレンガスを分解することができます。

小型の冷蔵庫の場合には、エチレンガス分解装置を設置出来ない場合があります。その場合には、冷蔵庫内を光触媒コーティングする方法がおすすめです。

以上、光触媒によって野菜の熟成や腐敗を抑制し、長持ちさせる方法を解説いたしました。光触媒は、エチレンガスを分解するので、熟成が抑制されます。野菜だけでなく、花卉(かき)も同様です。

紫外線を当てることができるなら、酸化チタンを使います。紫外線が無い場合は、銅ドープ酸化チタンを用います。

光触媒を使ったエチレンガスの分解をお求めの方、野菜の熟成を抑制できる冷蔵庫の開発をしたい方は、イリスまでお気軽にご相談ください。ご要望があれば、小型のエチレンガス分解装置の開発もいたします。

この記事の著者/責任者

島田幸一

株式会社イリス 代表取締役
島田 幸一 (Shimada Koichi)

私はもともと、地元農業のソリューション提供を事業としていたが、野菜や果物の劣化を促進させるエチレンガスの分解を研究したことで、光触媒の可能性を感じ起業いたしました。運よく可視光でも効果のある酸化チタン光触媒を世界で初めて開発して脚光を浴び、さまざまな業種のお客様から注文をいただける企業にまで成長できました。現在弊社は、可視光応答型光触媒を使ったコーティング剤を始め、外壁やガラス、石材、自動車の車内にクリア塗装ができる光触媒コーティング剤や、酸化チタンから下地を守るプライマーの開発。その後も、さまざまな材質に光触媒を定着するための研究を続け、多くの企業で採用されています。

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