光触媒は光エネルギーを受けて、OHラジカルという活性酸素を発生させます。
その活性酸素は有機物を酸化分解する性質があるので、「光触媒によってプラスチックも分解できるかもしれない」という考えもあります。
プラスチックを焼却すると有毒ガスが出る場合があります。もし光触媒でプラスチックが分解できるのであれば、光触媒なら焼却しないでプラスチックを処分できます。
さて、「光触媒でプラスチックを分解できるのか?」の答えは、マイクロサイズの微細なプラスチックなら可能ですが、目に見えるくらいの大きさ以上のものは分解できません。
その理由は、OHラジカルによる分解速度には限界があり、プラスチックの方が圧倒的に巨大なので、分解に膨大な時間がかかるからです。まるでハンマーを振り回して巨大タンカーを壊すようなものです。
強力な光を当てて時間をかけても、プラスチックは光触媒からすると巨大ですから、せいぜい、表面を劣化させる程度です。その理由を解説します。
光触媒が有機物を分解するメカニズム
光触媒が有機物を分解するメカニズムを解説します。次の図をご覧ください。
光触媒は、光が当たると励起電子を放出します。図では「e–」と書かれたものです。励起電子は、何かとくっつきやすい性質があり、空気中の酸素分子とくっつきます。電子はマイナスの電荷を持った物質なので、電子とくっついた酸素分子は、マイナスの電荷を持った酸素イオン「O2–」に変化します。
「O2–」は、これも何かとくっつきやすい性質があり、酸素イオンとくっついたものは、酸化します。つまり、燃えたことと同じ性質があります。何かとくっつきやすい酸素のことを、「活性酸素」といいます。この性質によって、雑菌や臭いの成分などの有機物を分解できるというものです。
さらには、「O2–」は空気中の水の分子「H2O」ともくっつきます。すると、酸素原子1つが水の分子とくっついた過酸化水素「H2O2」という物質に変化します。過酸化水素は、2つに分離してOHラジカル(・OH)に変化します。
このOHラジカルも酸化力の強い活性酸素です。OHラジカルによっても、有機物が分解されます。
活性酸素では大きなものを分解できない
さて、光触媒から発生する活性酸素は、確かに有機物と結合して酸化させる効果があります。しかし、大きなものを酸化分解するほどの性能はありません。
例えば、プラスチックの表面に光触媒を塗布し、光を当てたとします。すると、プラスチックの表面に活性酸素が結合して酸化しますが、プラスチックの表面に酸化膜が出来ると思います。酸化膜はそれ以上酸化しませんから、その薄い膜によって、中のプラスチックが守られるわけです。
酸化したプラスチックの表面が劣化して、プラスチック表面から剥がれ落ちていったら、その中のプラスチックがむき出しになって、さらに酸化するようになります。そのときには、プラスチックの表面に付着した光触媒も落ちていってしまうので、光触媒によるプラスチックの劣化は止まります。
光触媒でプラスチックの塊を分解する方法は非現実的
膨大な時間をかけてでも、光触媒でプラスチックの塊を分解するならば、考えられることは、次のような方法です。
- プラスチックに光触媒を塗布し続ける
- プラスチックに強い光を当て続ける
このような方法でプラスチックを酸化分解するのであれば、燃やした方が圧倒的に早いですし、コストも圧倒的に安くなります。そして、熱リサイクルもできるので、さらに効率的です。
光触媒によるプラスチックの劣化を抑える方法
今までは、光触媒でプラスチックを劣化させる方法について述べましたが、反対に、プラスチックを光触媒コーティングしたときに、プラスチックの劣化を抑える方法もあります。
その方法とは、プラスチックの表面に光触媒コーティングをする前に、先に下地保護剤を塗装しておくことです。下地保護剤とは、無機質の塗料です。一般的にはアモルファス酸化チタンが用いられます。
下地保護剤を塗装しておけば、プラスチックと光触媒が接触することがないので、光触媒がプラスチックを分解することを防げます。
ただし、光触媒よりもプラスチックの方が巨大なので、分解するためには直射日光を当てるくらいの、強い光を照射する必要があります。
下地保護剤は、プラスチックと酸素が直接触れることも防いでくれるので、紫外線による劣化も防止してくれる可能性があります。
以上、光触媒でプラスチックを分解できるかを解説いたしました。プラスチックを分解するのであれば、燃やした方が早いということです。
また、プラスチックに光触媒コーティングをしたときは、直射日光が当たる箇所では、下地保護剤でプラスチックを光触媒からの劣化を防止した方が良いです。
プラスチックの光触媒加工なら、弊社にお気軽にご相談ください。
この記事の著者/責任者
株式会社イリス 代表取締役
島田 幸一 (Shimada Koichi)
私はもともと、地元農業のソリューション提供を事業としていたが、野菜や果物の劣化を促進させるエチレンガスの分解を研究したことで、光触媒の可能性を感じ起業いたしました。運よく可視光でも効果のある酸化チタン光触媒を世界で初めて開発して脚光を浴び、さまざまな業種のお客様から注文をいただける企業にまで成長できました。現在弊社は、可視光応答型光触媒を使ったコーティング剤を始め、外壁やガラス、石材、自動車の車内にクリア塗装ができる光触媒コーティング剤や、酸化チタンから下地を守るプライマーの開発。その後も、さまざまな材質に光触媒を定着するための研究を続け、多くの企業で採用されています。