トルエンとは、ベンゼン環にメチル基が1つ結合したものです。化学式はC6H5CH3です。
環境省ホームページにトルエンの詳細がPDFで公開されています。そのページはこちらです。
トルエンの用途はとても幅広く、私たちが生活していく上では、なくてはならない物質です。
トルエンは「人に蓄積しにくく環境でも分解されやすい化学物質だ」といわれていますが、トルエンが基準値以上で検出される場所は除去を必要とします。
また、トルエンは住宅用建材にも使用されているので、化学物質に対して敏感な人にとっては、やっかいものです。新築住宅では、トルエンの室内濃度の指針値が厚生労働省に示されています。国土交通省住宅局の「快適で健康的な住宅で暮らすために 建築基準法に基づくシックハウス対策」をと参照ください。
トルエンを除去する方法はさまざまですが、トルエンを光触媒で分解ができるのであれば、活性炭などの吸着剤やトルエン用消臭剤の使用量を減らせるので、容易にかつ連続的に、そして費用を抑えて除去できます。
ところが、一般にはトルエンは、酸化チタンの光触媒では、ほとんど分解されないことが知られています。その酸化チタンに、身近にも存在する、ある成分を添加すると、トルエンを効率的に分解できるようになることを、弊社が発見しました。
また、この光触媒成分は、トルエン以外にもスチレンやキシレン、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどでも試験して、分解ができることを確認しました。これらの分解については、各コラムをご参照ください。
- スチレンの分解
⇒ スチレンを光触媒で分解・除去する方法 - キシレンの分解
⇒ キシレンを光触媒で分解・除去する方法 - ホルムアルデヒドの分解
⇒ 光触媒でホルムアルデヒドが分解できる!?
この記事では、酸化チタン光触媒がトルエンを分解できないことを示す実験データや、とある身近な物質を添加した酸化チタン光触媒がトルエンを効果的に分解する実験データを解説いたします。また、その光触媒成分を使った光触媒コーティング剤や、応用例を解説します。
トルエンの分解や臭い除去、脱臭をお考えの方は、ぜひご覧ください。
光触媒によるトルエンの分解効果の試験方法
試験や分析は、日本食品分析センター様に依頼して行っていただきました。トルエンの分解試験は、次の3種類の条件で試験しました。
- 光触媒なし(無塗装)
- 酸化チタン光触媒あり
- とある成分を添加した酸化チタン光触媒
試験方法は次の手順にて行いました。
- 光触媒を塗布したタイルと、何も塗布していないタイルを用意
- 光触媒を塗布したタイル、無塗布のタイルを、それぞれ別の袋に入れ、ヒートシールを施す
- 袋に3Lの空気を入れ、濃度が100ppmとなるようにトルエンを添加
- 袋の中央部の紫外線強度が1mW/cm2になるようにブラックライトを照射し、試験を開始
- 定時にガス検知管により、トルエンの濃度を測定
酸化チタン光触媒のみによるトルエンの分解試験
まず、一般的に知られている光触媒の成分として、酸化チタンだけでトルエンが分解できるのか試験した結果を解説します。
次のグラフは、酸化チタン光触媒を塗布したタイルと、無塗布のタイルを比較したグラフです。
上側の△のプロットのグラフが無塗布、下側の□のプロットのグラフが酸化チタン光触媒を塗布したタイルの結果です。
トルエンの濃度を測定した時間は、試験開始から30分後、1時間後、2時間後、3時間後、24時間後の5回です。
30分後は、どちらも同じ濃度ですが、1~3時間後にトルエンの濃度が20%ほど下がっています。その後は分解されなくなりました。
酸化チタンは、紫外線が当たると高い光触媒の効果があるのですが、トルエンは分解できませんでした。これが故に、「光触媒ではトルエンが分解できない」と誤解されています。
厳密には、酸化チタンのみの光触媒ではトルエンは分解できないのです。
次に酸化チタンに「ある成分」を入れた光触媒で、トルエンが分解できるかを試験しました。
ある成分を添加した酸化チタン光触媒による
トルエンの分解試験
その「ある成分」とは、銅です。銅は身近に存在する成分です。日本人は、10円玉で毎日のように接しています。
銅を添加した酸化チタンを使ったトルエンの分解試験結果が次のグラフです。さきほどのグラフに、銅を添加した光触媒の試験結果である◇のプロットを加えました。トルエンが分解されていることがわかります。
試験が開始されてから30分後には、すでに20%ほどトルエンの濃度が低下しています。その後もトルエンが分解され続け、24時間後には、ガス検知管の検出限界を下回りました。
銅を添加した酸化チタンを用いると、トルエンが分解できることが実証されました。
この結果には、試験を担当された方も驚かれていました。
ちなみに、「酸化チタンに銅を添加すると光触媒の効果が飛躍的に高まる」ということは、弊社が世界で初めて発見し、特許を取得しました。この光触媒成分は、業界でも話題となり、銅ドープ酸化チタンと名付けられました。
この試験結果のように、銅ドープ酸化チタンに紫外線を照射すればトルエンを分解できるのです。
トルエンを分解した光触媒コーティング剤
トルエンを分解した銅ドープ酸化チタンの製品は、屋内用光触媒コーティング剤(BX01-AB1)です。上記の試験は、この製品を用いて行いました。
屋内用光触媒コーティング剤(BX01-AB1)が分解できる化学物質
屋内用光触媒コーティング剤(BX01-AB1)は、トルエン以外にも、キシレンやスチレン、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドでも試験を行い、それぞれ分解できることを確認しております。
- トルエン
- キシレン
- スチレン
- ホルムアルデヒド
- アセトアルデヒド
また、この光触媒コーティング剤で、雑菌やカビ菌、アンモニアなどの臭い成分なども分解できることを確認しております。
この光触媒コーティング剤を、新築住宅の室内に塗装しておくと、化学物質の特有の臭いを消すことができるばかりか、カビや臭い、汚れが付きにくい部屋になります。
トルエンなどの化学物質に過敏な方は、弊社の光触媒コーティング剤をぜひお試しください。光触媒コーティング剤に過敏な方もいらっしゃるかもしれませんので、和紙に光触媒コーティング剤を塗布したものを無料でお送りするので、光触媒コーティング剤がお身体に安心して使用できるかをご確認ください。
自動車の車内なら車用光触媒コーティング剤(BXR02-C)
自動車の新車も車内は化学物質の特有の臭いがしますが、銅ドープ酸化チタンは、自動車の車内にも有効です。
自動車の車内は、シートなどが黒色なので、酸化チタンを塗装すると特有の白色が目立ってしまう場合があります。自動車の車内の光触媒コーティングは、クリア塗装ができるように成分が調合された、車用光触媒コーティング剤(BXR02-C)をご利用ください。
一般のお客様で、部屋や自動車の車内などを、銅ドープ酸化チタンを使った光触媒コーティングしたい方は、弊社もしくは弊社製品を扱う光触媒コーティング施工代理店までお問い合わせください。
トルエンなどの有機溶剤脱臭装置の開発をご支援します
屋内用光触媒コーティング剤(BX01-AB1)は、屋内に美しく調合するために成分が調合されています。成分の調合の仕方によっては、有機溶剤をより強力に分解できるようにもできます。
光触媒を使ったトルエン脱臭装置の開発が可能
脱臭装置内部配管や触媒部分、フィルター部分など、見栄えが気にならない良い場所には、光触媒成分の濃度を濃く塗装できます。光触媒の効果の高いコーティング剤をODM開発いたします。
トルエン脱臭装置の触媒部分は、300℃ほどに加熱すると思いますが、その程度の温度では酸化チタン光触媒は変質しませんので、ご安心ください。
また光触媒コーティングは、トルエン脱臭装置内部だけでなく、光触媒成分をフィルターに塗装し、内部に紫外線ランプを組み込んだ空気清浄機のような有機溶剤脱臭装置の開発も可能です。
光触媒によるトルエンの分解は、塗装工場などのトルエンを含む空気を排気しないといけない工場の応用も期待できます。工場の排気ダクト内にトルエンを分解する脱臭装置を設置すれば、トルエン用消臭剤の使用量を減らすことも可能ですので、長期的にはコスト削減につながります。
光触媒塗装ができるフィルターの材質は、不織布などのプラスチック、ステンレス、活性炭など、ほぼ何でも塗装がでるように、さまざまな種類の光触媒コーティング剤を開発しました。また、それらの材質への塗装で特許を取得しています。プラスチックのような有機物は、光触媒が分解してしまうので、プライマー(下地剤)を下塗りしておいて、劣化を防ぐこともできます。
なお、光触媒フィルターには、不織布のような細かい繊維のものよりも、ステンレスメッシュのような表面が荒いものの方が、トルエンの分解効果が高いようです。不織布では、光触媒が繊維の細部に入り込んでしまって、あまり効果が出ないようです。
光触媒コーティングされた活性炭でトルエンの吸着・分解効果を高める
また、活性炭といった多孔質な物質に光触媒コーティングをすることもできるので、装置の内部にそれを設置すると、VOCを吸着・分解してくれるようになります。
弊社では、活性炭とその吸着量を上回る量のトルエンを入れ、可視光を照射したら、トルエンを完全に除去できたことを確認しています。
活性炭でトルエンを脱臭している企業様であれば、活性炭の寿命が大幅に延びるので、コスト削減につながることと思います。弊社は、活性炭の細孔を目詰まりさせないように、表面だけに光触媒加工する技術を開発しています。
次の写真は、ナノサイズの墨の表面のみに酸化チタンを塗装したときの写真です。
左の図は、墨の断面図です。右の図は特殊な光で酸化チタンのみを映し出した様子です。青い部分が酸化チタンです。墨の表面には黒い点々があり、断面には酸化チタンがありませんので、酸化チタンが墨の表面の穴や内部に入り込んでいないことを示します。つまり、墨の吸着効果を損なうことなく、酸化チタンをコーティングできていることを意味します。
墨に何もしないで酸化チタンを塗装したら、墨の内部にまで酸化チタンが入り込み、断面全体が青くなってしまいます。ところが、弊社の特許技術によって内部には酸化チタンが入り込まないようにできました。
トルエンなどの有機溶剤脱臭装置に、このように光触媒加工された活性炭を組み合わせると、さらに脱臭が効果的になると思われます。
このような弊社の特許技術により、トルエンなどの有機溶剤脱臭装置の開発をご支援いたします。お気軽にご相談ください。また、トルエンの脱臭装置を開発しているメーカー様で、銅ドープ酸化チタンの導入をご検討いただけましたら、ぜひ弊社までご相談ください。
この記事の著者/責任者
株式会社イリス 代表取締役
島田 幸一 (Shimada Koichi)
私はもともと、地元農業のソリューション提供を事業としていたが、野菜や果物の劣化を促進させるエチレンガスの分解を研究したことで、光触媒の可能性を感じ起業いたしました。運よく可視光でも効果のある酸化チタン光触媒を世界で初めて開発して脚光を浴び、さまざまな業種のお客様から注文をいただける企業にまで成長できました。現在弊社は、可視光応答型光触媒を使ったコーティング剤を始め、外壁やガラス、石材、自動車の車内にクリア塗装ができる光触媒コーティング剤や、酸化チタンから下地を守るプライマーの開発。その後も、さまざまな材質に光触媒を定着するための研究を続け、多くの企業で採用されています。