この記事は、「ステンレスの表面を光触媒加工したい」という、マニアックな使い方を考えている人に向けた内容になります。
光触媒加工とは、酸化チタンや銅ドープ酸化チタンといった光触媒成分をコーティングする加工のことです。
ステンレスにどのような光触媒成分を加工するのか、光触媒加工されたステンレスが何に使えるのか、耐久性を高める方法など、ステンレスの表面に光触媒加工し耐久性を高める方法などを解説します。
光触媒加工されたステンレスの用途
光触媒は、光が当たると表面にOHラジカルという活性酸素を発生させて、有機物を分解する効果があります。それによって、除菌や防カビ、消臭、化学物質の分解などといった効果があります。また、親水性の効果と合わせて、防汚効果も得られます。
「ステンレスの表面を光触媒加工したものが、何に利用されるのか?」ということですが、次のような用途に利用できます。
- 厨房機器・・・除菌
- ステンレスメッシュ・・・空気の除菌、ガスの分解、水質浄化など
ステンレスの板の表面処理は、いろいろな種類の仕上げがなされています。表面処理によって、光触媒による光の反射の仕方によって、色が出てしまうことがあります。特に鏡面仕上げの場合には、光触媒コーティングを均一に塗装しないと、虹色のようなまだら模様が出てしまうことがあります。
見た目が気になる場所に利用するステンレスの場合は、光触媒コーティングの仕方にご注意ください。
ステンレスの表面に光触媒加工する方法
ステンレスの表面に光触媒加工する方法は簡単です。光触媒コーティング剤を、ステンレスの表面に塗布して、乾燥させます。塗装の方法は、塗装機械とスプレーガンで行います。
塗装したら、そのまま乾燥をさせる方法もありますが、炉で加熱して接着させると、光触媒の強度が高まります。炉で加熱する温度は、250℃~300℃くらいが適温かと思います。
そのまま乾燥をさせただけのものであれば、ブラシで擦ると光触媒成分が落ちていきやすいですが、加熱して接着させると、かなりの強度で接着するので、ブラシで擦ったくらいでは落ちにくくなります。
ガスの分解や水質浄化といったフィルターに利用する場合には、フィルターを洗浄することがあると思うので、炉で加熱して接着することをおすすめします。
光触媒加工されたステンレスメッシュをVOC分解に利用
塗装工業の排気には、VOCガスが含まれています。そのガスを排出したら、環境に負荷を与えることになりますし、VOCの臭いでクレームになることと思います。
排気ガスの処理として、VOCガスの臭いを抑える処理剤や活性炭による吸着、触媒を使った装置による分解など、さまざまな方法がありますが、どれもランニングコストか導入コストが高いと思います。
それを、光触媒を使った装置に置き換えるとするならば、ステンレスメッシュに光触媒加工をしたものをチャンバーに入れて、紫外線ランプを照射しておけば、VOCガスが分解できるようになります。とても簡単な構造の装置ですから、メンテンナンスも容易です。
このときに利用する光触媒成分は、「銅ドープ酸化チタン」がおすすめです。通常の酸化チタンでは、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドといったカルボニル基の成分なら分解しやすいですが、トルエンやキシレンなどといったベンゼン環を持つものは、分解が難しいとされます。
ところが、銅ドープ酸化チタンは、分解が難しい成分をも分解ができます。銅ドープ酸化チタンは、暗所でもVOCを分解できると思いますが、紫外線を照射したらVOCを強力に分解してくれます。
触媒装置のような加熱は必要ありませんし、ステンレスメッシュの定期交換も必要ありませんから、電気代はほとんどかかりません。ステンレスメッシュや紫外線ランプが汚れたら洗ったり、紫外線ランプが切れたら交換したりする程度のメンテナンスで済みます。
銅ドープ酸化チタンによるVOC分解の詳細は、「揮発性有機化合物(VOC)を分解できる光触媒成分とは?」をご参照ください。
光触媒加工されたステンレスメッシュを水質浄化に利用
光触媒加工されたステンレスメッシュは、水質浄化にも利用ができます。
池の水を浄化したい場合には、直射日光が当たる場所に水槽を用意し、その中に光触媒加工されたステンレスメッシュを設置します。その水槽に、池の水をくみ上げて入れるだけです。
また、地下水汚染の浄化の場合には、地下水をくみ上げて、水槽に入れて、浄化された水を地下に戻すだけです。その場合は、紫外線ランプと組み合わせると効果的です。
これらの水質浄化に利用する光触媒成分は、やはり銅ドープ酸化チタンがおすすめです。
銅ドープ酸化チタンは、光が当たっていなくても水質浄化ができるので、池の水の浄化では、夜間も利用できますから、ランプを設置する必要がありません。また、地下水汚染の場合には、銅ドープ酸化チタンに紫外線を当てたら、化学物質を容易に分解できるからです。
レンジフードに利用するステンレス板の光触媒加工
厨房のレンジフードは、表面やグリスフィルターなどに油汚れが重なってこびり付いて、定期的に掃除をしていても油汚れが取れなくなります。レンジフードの表面やグリスフィルターなどを光触媒加工しておけば、光触媒に接触している部分の油汚れが分解されるので、油汚れが落ちやすくなります。
厨房の防汚で利用する光触媒成分も、銅ドープ酸化チタンです。銅ドープ酸化チタンであれば、厨房の明かりだけで、油分がふき取り易くなり、掃除が容易になるはずです。
ただし、中華料理といった油汚れが極端に多いレンジフードでは、試したことがありませんから、誰か試験的に導入していただけたら助かります。
以上、ステンレスの表面に光触媒加工をする方法や用途を解説いたしました。
まとめますと、ステンレスに光触媒加工をしたら、炉に入れて250℃~300℃くらいに加熱して、接着させると強度が増します。また、塗装する光触媒成分は、どのような場面でも銅ドープ酸化チタンが良さそうです。
ステンレスの光触媒加工のことなら、弊社にお気軽にご相談ください。
この記事の著者/責任者
株式会社イリス 代表取締役
島田 幸一 (Shimada Koichi)
私はもともと、地元農業のソリューション提供を事業としていたが、野菜や果物の劣化を促進させるエチレンガスの分解を研究したことで、光触媒の可能性を感じ起業いたしました。運よく可視光でも効果のある酸化チタン光触媒を世界で初めて開発して脚光を浴び、さまざまな業種のお客様から注文をいただける企業にまで成長できました。現在弊社は、可視光応答型光触媒を使ったコーティング剤を始め、外壁やガラス、石材、自動車の車内にクリア塗装ができる光触媒コーティング剤や、酸化チタンから下地を守るプライマーの開発。その後も、さまざまな材質に光触媒を定着するための研究を続け、多くの企業で採用されています。