
VOCとは、ホルムアルデヒドやトルエン、キシレンなどの揮発性有機化合物のことです。
工場で利用している有機溶剤などから、VOCが発生している場合、工場で働く社員や、VOCを排気するときの近隣への配慮が必要です。
そういったことで、VOCが発生する工場ではVOC対策が欠かせません。
VOC対策としては、VOCの分解や吸着といった方法で脱臭が行われます。その方法の一つとして、光触媒を活用した脱臭方法があります。
この記事では、さまざまなVOCを分解できる光触媒成分「銅担持酸化チタン」の実力をご紹介しつつ、銅担持酸化チタンを活用した脱臭方法をご紹介します。
光触媒によるVOC脱臭を行いたい、または光触媒を活用したVOC脱臭装置を開発したいとお考えの企業様は、ぜひ弊社までご相談ください。
銅担持酸化チタンとは?
銅担持酸化チタンとはどういった光触媒成分なのかをご説明いたします。
銅担持酸化チタンとはどういった成分か?
ここで「担持」とは、「結合させた」という意味です。酸化チタンは古くから光触媒の成分として利用されているもので、それに銅を結合させた成分です。
もう少し厳密にご説明いたします。
酸化チタンにはいくつかの結晶構造があります。その中で、アナターゼ型と言われる結晶構造の酸化チタンが光触媒として利用されています。
アナターゼ型酸化チタンの結晶の表面に酸化銅を結合させたものが、銅担持酸化チタンです。別名「銅ドープ酸化チタン」とも言われます。
アナターゼ酸化チタンの結晶は、ナノサイズの結晶です。弊社の光触媒コーティング剤に利用されている結晶は、おそらく100nmほどのサイズになります。その結晶の表面に、ナノサイズの酸化銅を担持させています。
なぜ銅を担持させたのか?
アナターゼ型酸化チタンは、紫外線に強く反応して触媒効果を発揮し、VOCなどを酸化分解する性質を持ちます。紫外線以外の光には、ほとんど反応しません。
弊社では、「アナターゼ型酸化チタンは、紫外線を照射したら魅力的な性質が出るが、可視光では効果が無い。何とかして可視光でも触媒効果を発揮する酸化チタンが開発できないだろうか?」と考え、2年もの歳月をかけて開発したものです。
銅担持酸化チタンは、紫外線はもちろんのこと、紫色や青色、水色(シアン)の波長を持つ光にも反応して、VOCを酸化分解してくれる性質があります。
銅担持酸化チタンは光を照射しなくてもVOCを分解
さらに銅担持酸化チタンには、光を照射しなくてもVOCを分解する性質があります。この性質を持つ理由は、長らく謎でしたが、近年「ナノサイズの酸化銅が、光の無い常温でも触媒効果を持つ」ということが知られ、どうやらその効果によってVOCが分解できているのではないかと考えます。
もちろん、紫外線や可視光を照射したときの方がVOCを分解する効果が高いのですが、光がなくても分解できることは魅力的な性質と言えます。
銅担持酸化チタンは液剤として存在
銅担持酸化チタンは、微粉末として製造する方法もあるようですが、製造工程がとても複雑ですから、粉末を利用することは現実的ではありません。
弊社が開発した銅担持酸化チタンの製造方法は、ゾルゲル法と言われる方法でアナターゼ型酸化チタンを使った液剤を作成しておき、そこに銅イオンを添加します。その後に、特許製法にて銅イオンをアナターゼ酸化チタンに結合させています。アナターゼ型酸化チタンに結合された銅は、ナノサイズの酸化銅として存在します。
この製造方法は、とても簡単な方法ですから、銅担持酸化チタンを微粉末で製造するよりも、コストが圧倒的に抑えられます。
この液剤にバインダー成分(接着剤)を混ぜることによって、銅担持酸化チタンをコーティング塗装することができます。
銅担持酸化チタンによるVOC脱臭のエビデンス
銅担持酸化チタンが分解脱臭できるVOCの種類
銅担持酸化チタンが分解脱臭できるVOCの種類をご紹介します。この種類は、実際に弊社もしくは弊社の液剤を提供させていただいた企業様が試験をして分解ができたものです。
- ホルムアルデヒド
- アセトアルデヒド
- エチレン
- トルエン
- キシレン
- スチレン
- イソプロパノール
- 酢酸
これ以外にも分解できたVOCはございますし、VOC以外のガスでも分解が確認されたものも多数ございます。
ここで、エチレンやトルエンなどのベンゼン基のVOCも分解できたことに、ご注目いただきたいと思います。その理由は、一般的によく利用される光触媒成分であるアナターゼ型酸化チタンは「ベンゼン基のVOCは分解ができない」ということが知られているからです。
ところが、銅担持酸化チタンは補触媒であるナノサイズの酸化銅が効果を発揮し、ベンゼン基を持つVOCをも分解脱臭してくれるようです。
銅担持酸化チタンのVOC分解試験
次の図をご覧ください。このグラフは、ベンゼン基を持つVOC「トルエン、キシレン、スチレン」が分解できるかを試験した結果です。

ブランクに対してアナターゼ型酸化チタンは、ほとんど分解脱臭ができていません。それに対して銅担持酸化チタンは、どれも24時間以内に無臭にまで脱臭できていると言えます。
これらの試験の詳細は、「揮発性有機化合物(VOC)を分解できる光触媒成分とは?」をご参照ください。
この試験は日本食品分析センター様にて行っていただきました。そのとき、試験前に担当の方が「光触媒で、トルエンやキシレンは分解できないよ」とおっしゃっていました。ところが、試験を行うと3種類のVOCがどれもグングンと分解されていく結果を目の当たりにされ驚かれていました。
銅担持酸化チタンを使っての高いVOC脱臭効果を得る方法
銅担持酸化チタンがVOCを分解脱臭してくれる効果の高さは、次の要素があります。
- 銅担持酸化チタンの塗装面積
- VOCが銅担持酸化チタンに接触する頻度
- 銅担持酸化チタンにエネルギーの強い光を照射
VOCを脱臭できるかどうかは、発生するVOCの量と銅担持酸化チタンが分解できる速度に関係します。VOCを分解できる速度は、上記3つの要素が関係します。もちろん、VOCが常に発生している環境では、VOCをゼロにすることは難しいです。ですが、できるだけVOC濃度を下げる方法として、上記の環境が整うようにすると良いでしょう。
これらのことを考慮して、銅担持酸化チタンを使ったVOC脱臭方法を検討したいと思います。
銅担持酸化チタンを使ったVOC脱臭方法
銅担持酸化チタンを使ったVOC脱臭方法として、室内の光触媒コーティング塗装と光触媒コーティング塗装された活性炭やフィルターの利用があります。
室内のコーティング塗装によるVOC脱臭

銅担持酸化チタンをつかった光触媒コーティング剤を、工場内の壁や天井などに塗装することで、銅担持酸化チタンの塗装面積が大きくなり、VOC脱臭が可能です。
弊社が製造・販売している銅担持酸化チタンを使った光触媒コーティング剤には、屋内用光触媒コーティング剤(BX01-AB1)です。専用の塗装機械とスプレーガンを使って、工場内に塗装します。部屋全体を塗装しておくことで、工場内のVOC濃度を継続的に下げられることが期待できます。
サーキュレーターを利用することで、VOCが銅担持酸化チタンに触れる機会を増やすことができます。
光触媒加工された活性炭によるVOC脱臭

活性炭の表面に銅担持酸化チタンを塗装することで、VOCを吸着分解できる活性炭になります。
活性炭はVOCを吸着する性質があります。その表面を光触媒加工しておくことで、吸着だけでなく分解できるようになります。つまり、VOCが銅担持酸化チタンに効率的に接触するようになるため、VOCを脱臭しやすくなります。
一般的な活性炭は、VOCを吸着したらいずれは吸着力が落ちてしまいます。ところが、光触媒加工された活性炭は、VOCを分解し続けてくれるので延々と吸着し続けてくれる可能性があるわけです。活性炭メーカーからすると、禁断の活性炭となります。
つまり、VOC脱臭に活性炭を利用されている方は、活性炭の交換や再生処理から解放されるので、ランニングコストを下げることができます。
光触媒加工された活性炭の利用については、「ホルムアルデヒドを除去し続ける光触媒加工された活性炭とは?」をご参照ください。
光触媒加工されたフィルターによるVOC脱臭

VOC脱臭装置や排気装置に用いられるフィルターに銅担持酸化チタンを加工する方法があります。
ステンレスメッシュフィルターの表面に銅担持酸化チタンを加工し、紫外線ランプと組み合わせることで、効率的にVOCを分解できます。銅担持酸化チタンは、紫外線を照射しなくてもVOCを分解できる可能性が高いですが、より効果を高めるために紫外線ランプを用います。
排気ガスに含まれるVOC濃度に応じて、ステンレスメッシュフィルターを何枚も設置します。
今現在、VOC脱臭で薬剤を利用している企業様は、ぜひ銅担持酸化チタンの利用をご検討ください。銅担持酸化チタンを利用することで、VOC脱臭のために薬剤の量を大幅に減らす、あるいは薬剤散布そのものを無くすことができる可能性があります。
ステンレスメッシュフィルターを光触媒加工する方法は、銅担持酸化チタンを使ったコーティング剤をステンレスメッシュフィルターに塗布し、300℃程度の温度で焼き付けをします。焼結させることで、耐久性が高まるからです。
以上、さまざまなVOCを分解できる光触媒成分「銅担持酸化チタン」の実力や脱臭方法をご紹介しました。トルエンやキシレン、スチレンを分解した試験結果からも、銅担持酸化チタンのVOC脱臭力をご理解いただけたことと思います。
銅担持酸化チタンを利用することで、大がかりな装置の設置やメンテナンス、継続的な薬剤散布から解放され、ランニングコストを大幅に下げられる可能性も伝わったことと思います。
光触媒によるVOC脱臭を行いたいとお考えの企業様、光触媒を活用したVOC脱臭装置を開発したいとお考えの企業様は、ぜひイリスまでご相談ください。
この記事の著者/責任者

株式会社イリス 代表取締役
島田 幸一 (Shimada Koichi)
私はもともと、地元農業のソリューション提供を事業としていたが、野菜や果物の劣化を促進させるエチレンガスの分解を研究したことで、光触媒の可能性を感じ起業いたしました。運よく可視光でも効果のある酸化チタン光触媒を世界で初めて開発して脚光を浴び、さまざまな業種のお客様から注文をいただける企業にまで成長できました。現在弊社は、可視光応答型光触媒を使ったコーティング剤を始め、外壁やガラス、石材、自動車の車内にクリア塗装ができる光触媒コーティング剤や、酸化チタンから下地を守るプライマーの開発。その後も、さまざまな材質に光触媒を定着するための研究を続け、多くの企業で採用されています。